第173話 靴下をつくろふ夜さり 🧦
太平洋戦争が終結した年の十月、福岡県立筑紫保養院でだれにも看取られずに息を引き取った杉田久女さんは、ひとつことを思い詰めがちだった気質の延長として師・高浜虚子さんに手製の菊枕を贈り、思いきり(汗)疎まれました。のち松本清張さんが短編『菊枕』で一件を取り上げましたが、それも男性作家から見た女性像で……。
久女さんの生涯を執筆させていただいたヨウコさんは、まったく別の見解をもっているのですが、いまは置くとして……代表句のひとつとされる「足袋つぐやノラともならず教師妻」はとかくの論議を呼びがちな一句で、ある著名俳人がテレビで述べた「わたし、この句きらい。教師妻のどこが不満なの」発言には、心底、驚きました。
👘
だいたいからして他者の作品を個人の好悪で決めつけるなどクリエイターの風上にも置けない不遜ぶりかと。まあ、それも置くとして(笑)週二アップ中の連作俳句の「靴下をつくろふ夜さり久女の忌」はむろん久女さんに敬意を表しての一句ですが、ご高覧くださった多くの方々には現在の情景とは映らなかったかも知れません。(^^;
なべて廉価な靴下が使い捨てになって久しいことは承知していますが、ヨウコさんが躊躇ったのはかなり高価な寒冷地向けの分厚い靴下。登山用でもあり織りの緻密な芸術的ともいえる逸品なので、一か所がすりきれたからといって、はい、さようならはあまりに……で、手縫い籠から見つけた同系のハギレを当てて繕ってみたのです。
すると、あらまあ、おやまあ、新品よりもぐっと趣きが増したではありませんか。まるで金継ぎを施した陶器みたいに……。丁寧に縫った部分をひっくり返すとき豊かで満ち足りた気持ちがこみ上げて来たのは、いく冬も寒さから守ってくれた靴下への恩返しが少しは出来たかなという思いからだったかも知れません。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
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