第111話 タニマチの話 🤹‍♀️



 かれこれ十数年前になりましょうか、新しい文化会館の活動が活発だったころで。

 ――文化の定義が広いなか、なにゆえに演劇や音楽だけに巨額の税金をつかうの?

 承服しかねるヨウコさんのもとに、ある日、顧客先の女性社長がやって来ました。


 なんですか、新文化会館のそばの飲み屋さんで知り合ったとかいう東京の役者さんを連れています。たまにテレビで見かける、言うところのバイプレーヤーさん?……で、小ホールを借りきって独り芝居を行うことになったので、パンフレットの後援として名前を借りたい(暗黙に「チケットの割当もよろしく」💦)と頼まれました。


 自社の業務をこなすだけでも精いっぱいの現状ではスタッフの動員は無理と婉曲にお断りしましたが、ならば社長さんだけでもと、仕事を匂わせて引き下がりません。やむを得ずなみだを呑んで高額なチケットを何十枚も買い取り、取引先やスタッフの家族にも動員をかけましたが、小といえど平日の三百席は空席が目立ったようです。



      👘



 のち、両者の再訪を受け、積極的に動かなかったヨウコさんにも責任の一半があると仄めかせられたとき、なるほどタニマチを気取りたかったんだね~と悟りました。


 一代企業のヨウコさんとちがい、ひとまわり先輩の社長の商店は江戸期からつづく街中の有名な老舗で、当時の倣いで、旅の画家や俳人などの食客をいつも住まわせていたと、箱入り上製本金箔押しの重く立派な社史に謹んで拝読した記憶があります。


 リベラルを気取ってみせても本音では新参への優越感を捨てきれなかったんだね、歴代ご先祖に倣って大旦那と呼ばれてみたかったんだ~……それから間もなく彼女の会社は倒産し、その十年後にヨウコさんの会社も解散しました。倒産で不問に付した売掛金の百万円がいまあったら……みみっちいことは言わぬが花ですよね~。(笑)




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