第108話 郊外の美術館へ ⛪



 数十年ぶりにその美術館に行ってみようかなと思い立ったのは、車の定期点検で、レシートによく似た紙片を提示した若い整備士さんに「もう少し距離を乗っていただかないと冬のバッテリーがヤバいです」と指摘されたからだったかも知れない。💦


 低気圧が近づいているという天気予報を気にしながら、西方に向かって三十分ほど車を走らせるうちに、こんなに?! と思うほど山が近づいたことに衝撃を受けた。長いことご無沙汰だと土地勘が鈍って来るんだね~。それに、この土地に生まれた人と他所から嫁いだ人とでは、その圧迫感や閉塞感に大差が出て当たり前だろうね~。


 歴史小説の執筆のとき、事前のフィールドワークでその土地の空気感を肌で感じることがいかに大切か実感して来たけど、机上の推察では思いもよらなかったローカルな世界観を根底にしておかないと、作品自体が誤った方向に進みかねないよね。etc.



      🌼



 早逝したアーティストの名を関する小さな美術館は、ごうごうと吹きわたる秋風に攪拌された光の粒をまぶされて煌めいていた。むかしは時計台のある本館だけだったはずだが、関連する画家や彫刻家の作品を展示する別館がいくつか増築されている。


 狭くなった印象の敷地の随所の花壇に、丈高い秋明菊や紫色の艶やかな式部の実、地味で目立たない吾亦紅など秋の草花がなびいており、雑草として処理されることが多い姫女苑まで大事に育てられていることに、当館の志のようなものが感じられる。


 外光を採り入れ人工照明をおさえた館内のテーブルに、当今の美術館にお決まりのクラウドファンディングのパンフレットが積まれていて、これまたお決まりのように「おかげさまで目標額を達成!!」の文字が躍っているのを複雑な気持ちで眺める。


 目当ては代表作の数点だったが、せっかくなので全館の展示品をくまなく拝観して外に出ると、色づき始めた雑木の枝葉が強風にあおられてちぎれそうに翻っている。受付横のショップで地元の養護学校の生徒による藍染のハンカチを一枚買い求めた。



      🦘



 上着を脱いでも汗がにじむ運転席で、まっすぐ家を目指しながらつらつら考えた。


 先日、ディーラーからの帰路のモスバーガーで遭遇したゴルフ灼けの茶色いシミやコジワを顔中いっぱいに広げた金持ち夫人の露骨な蔑みに類する出来事にあの数年間かなり頻繁に見舞われたが、離れ住む子どもたちの耳には入れないようにして来た。


 でも、故郷の同級生たちのだれそれから自然に伝わったんだろうねと、いまにして思う。でなければ「おかあさん、そちらを整理してこちらで一緒に住もうよ」などと微妙な表現をして来るはずがない。いまだに針の筵と思っているのかもね。(*ノωノ)


……来週あたり動物園に行ってみようかな~、車の走行距離を稼ぐために。(笑)




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