第50話 ノンフィクションをもう一度 🩴
はるかむかし、歴史研究会の老人グループに連れられてシルクロードを南下した。
一日半だったかまる二日だったか、途方もなく長い列車旅を、外国人専用車輛で。
事前に中国人通訳を通して車掌から「日本人は水を使い過ぎて困る」と申し入れがあったので手を洗うにも気を遣い、まして洗顔など恐ろしくてタオル清拭に留めた。
ほとんど褐色のゴビ砂漠をひた走る十数輌編成の車窓を、遠く近くはためく五色の短冊がよぎって行った。その向こうにばら撒かれている牛や羊と、群れを追う人影。
カサコソ乾ききった音が聞こえそうな無数の短冊がなびく三角の土(砂)盛りは、それらしき小家の翳すら見えない地域住民の墓だと事情通の研究者が教えてくれた。
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沢木耕太郎さんのノンフィクション『人の砂漠』の「あとがき」の冒頭の一節に、何十年かのときを超えて、当時の情景が、むっくりと屹立した。ある哀感を伴って。
――砂漠を歩いていると、地平線の彼方にまでつづているかのような白いまっすぐな道のかたわらに、ただ石を無造作に積み上げただけの墓を見ることがあった。往きに死んだ者と還りに再び会えるかどうかも知れず、しかし、遊牧民は石を積むのだ。
いたっと思った、ビシッと鞭で打たれたように。同じ人間に生まれても、今日の道が明日には砂原になっている土地の住人と、突き当たりは海の島の住民と……。💧
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ノンフィクションという文芸ジャンルの不振が言われて久しく、ヨウコさん自身も長らくご無沙汰していたが、一定期間を経て再読するとかえって新鮮に感じられる。
創作と事実、どちらの文学性が高いかは一概に言えないが、いずれにせよ、カオスの最たる人間の本質にどこまで迫れるか、そこが勝負だろうねとあらためて考える。
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