第22話 白い百日紅 🌼
この人はどうしてもわたしを傷つけずにいられないのだ。
そんな暗い予感の怯えの記憶が生々しく呼びもどされる。
読んでいる小説に影響されやすいのはいつものことなので、とりたてて別に……。
努めて思いながらも、パートナーより売れ出した作家を待ち受ける受難、怖~い。
頭のなかで何度も練り直され、研ぎ澄まされた言葉の刃の切っ先の、鋭い尖がり。
最小のフレーズで如何に相手を貶めるか、男を動かしているのは一途にそれだけ。
先ごろ読んだ(or読まされた)雑誌の一文もまさにソレだった。うまく隠しおおせたと思っているのは当の本人だけで、いまだに根強い人気を誇る先代への妬心。💦
🏡
疲れた目を上げると、カフェのテラスの外に、白い百日紅がかすかに揺れている。
ひとつひとつは指先より小さいのに、多数が寄り集えば、意外に量感のある花房。
チリチリ、チリチリ、縮緬のような、レース編みのような、白い小花がささやく。
猛暑の木蔭をそっと通り抜ける微風にもいと易くなびいてみせる可憐な小花たち。
若いころは、せっかく百日紅に生まれながら、白なんてつまらないと思っていた。
古い女性俳人が「天の簪」と詠んだ青空の恋人、あれもきっと深紅色だったろう。
🌳
なのに、いつの間にか風景に溶けこんでいる白い百日紅に惹かれるようになった。
いくつになっても「わたしがわたしが」と前へ押し出して来る派手色、鬱陶しい。
まして、物腰はやわらかくても究極自己愛の人で、チャンスさえあれば小鼻をひくひくさせ(むろん本人は気づかず)自慢癖を披露せずにいられない高齢女性は……。
――風を待つ白い小花や百日紅 (*´з`)
ヘンに目立って疎まれるより、夏木立の片隅に、地味にひっそりと咲いていたい。
いつ咲いていつ散ったのか、知っているのはさすらいの風と雀だけ、それでいい。
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