第34話
「どれもよく撮れてるねえ」
ナツキちゃんは俺の持ってきた写真を眺めて言った。いつもの相談室で美雨と三人、紅茶を飲みながら話をしていた。
「もっと撮りたかったんだけど、枚数がぜんぜん足らなくて」
「でもそのおかげで、この大作ができたんだ」
ナツキちゃんが指さした先には、俺の描いたパレードの絵が置いてあった。美雨は間近でじっくり眺めたり、逆に少し離れて見たり、矯めつ眇めつ俺の絵を鑑賞していた。
「美雨ちゃんも気に入ったみたいだね」
「本当に綺麗な絵、まるでその場にいるみたいな気持ちになる」
俺の絵に向けられた美雨のまっすぐな眼差しに、俺は自分自身を褒められるより遥かに強烈な喜びを覚えた。
「花火もあがってたんだねえ」ナツキちゃんが言った。
「私も見たかったなあ。花火なんてもうずっと見てない」
「それ本当?」俺は美雨に訊き返した。
「うん、どうして?」
「舞雪から花火大会に誘われてるんだ」
「ああ、舞雪と行くんだね」
「美雨もだよ」
「え?」
「舞雪が言い出したんだ。たぶん改めて誘いの連絡がいくと思うよ」
「本当に? 舞雪が?」
「よかったね」
ナツキちゃんは優しく笑って、美雨の後ろ髪を撫でた。
「だけど、ちょっと怖いな」
「ならやめとく? 行かなかったら、あとで後悔するんじゃない?」
「そうだけど」
美雨は難しい顔でうつむいた。少しつついたら、泣き出してしまいそうだった。
「大丈夫だよ、俺もいるし」
「そうだよ。それに颯太くんも、美雨ちゃんの浴衣姿が見たいんじゃない?」
「浴衣を?」
美雨は目を丸くして俺を見つめた。
「どう? 颯太くん? 見たくない? 美雨ちゃんの浴衣姿」
「それは、まあ……」
「はっきりしないなあ。ほら、美雨ちゃんも訊いてごらん?」
「その、……見たい? 私の浴衣」
美雨は恥ずかしそうに頬を赤らめて、上目遣いに俺に訊いた。いじらしい眼差しに時間は止まって、俺は瞳のなかに吸い込まれそうになった。
「ほら、颯太くん、どうなの?」
「み、見たい……です」
「そっか」
美雨は意外そうな顔をして頷いた。それからぱっと晴れやかに笑って、そっかそっか、と嬉しそうに言った。
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