第26話
写真はインスタントカメラで撮るにしても、電話をするとなると、やはりスマホが必要になる。ホテルの部屋にも電話はあるが、当然のごとく使用禁止。仮にこっそり使っても、会計時にはバレバレらしい。
「スマホを買ってほしいんだけど」試しに父さんに頼んでみたら、
「ダメだ」にべもなく断られた。
まあ仕方がない。気は進まなかったが、俺は母さんの勤めるカフェに行って、スマホがほしい、と頭をさげた。
「珍しいわね、颯太が私にお願いなんて。これがはじめてじゃないかしら?」
「それだけ切実だってことだよ」
「何に使うの? ゲーム? 動画? SNS?」
「電話」
「ならキッズケータイでもいいの?」
母さんは意地悪のつもりで言ったのだろうが、
「簡単スマホでもなんでもいい」
俺が即答すると、おや? という感じに首をかしげた。
「理由を聞かせてくれる?」
「言いたくない」
「どうしても必要なら交渉しなくちゃ」
母さんはカウンターの向こうへ戻ると、二人分の紅茶とケーキを運んできた。エプロンをはずして、俺の向かいに腰かける。
「休憩をもらったから、話す気があるなら十五分以内に」
「仕方がないな」
俺は母さんに美雨のことを話した。彼女が心を壊したこと。そのせいで別室登校をしていること。修学旅行にも参加できず、だから電話をしてほしい、と頼まれたこと……。母さんはケーキを食べながら、俺の話に相槌を打った。聞き上手なところは、一緒に住んでいたころから変わらない。つい熱がこもって、気がつけば母さんの休憩時間をめいっぱい使っていた。
「話はわかったわ」
母さんは立ちあがって、エプロンをつけた。
「買ってくれるの?」
「そうね。ただし条件がある」
「条件?」
「次の学校の試験で、十番以内に入ること」
「そんなの無茶だよ」
「じゃあ十一番にしてあげる。これ以上は譲れないわ」
母さんはあいた食器を重ねてカウンターへ戻った。
「十一番以内に入ったら買ってくれるんだね?」
「最新のスマホをプレゼントするわ」
母さんは水を流しながら歌うように言った。
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