第5話 冒険の下準備

依頼の内容は大昔のゴーレム職人が工房としていた館の探索だ。

彼の残した研究成果を記した書物などを持ち帰れば依頼達成。

研究成果以外の館で見つかる金品はもらうことができる。


前世の記憶通りなら、この館には時を同じくして魔物たちが侵入しており、そいつらを倒さなければ館を探索することはできない。

また館の地下にはゴーレム職人の研究記録を守るためにボスであるガーゴイルを含む複数体のゴーレムが控えている。

魔物との戦いをできるだけ無傷で終わらせて、万全の状態でゴーレムに挑まなくてはならない。

どうしても防御タンク役となる『仲間』が必要だ。


私は街を出ると、目的の館に向かう前に森へ寄ることにした。

野伏レンジャーレベル1の私の採取スキルなら薬草の入手くらいはできるだろう。

森に踏み入ると狩人ハンターレベル1の知覚スキルが働き野兎の存在を私に知らせる。

この依頼を攻略するためには長い準備時間がかかる。食料として尊い命を頂かせてもらおう。

簡単な罠を仕掛け、野兎がかかるのを待つ間、料理人コックレベル1の調理スキルで鍋に水を沸かす。野兎はシチューにするに限る。

罠が作動した音を聞いて、かかった野兎を精肉業者ミートパッカーレベル1で解体し、血抜きを行い可食部だけを取り出す。

前世の私では「兎さんがかわいそう」みたいなことを思ったかもしれないが、今はレベル1技能の数々が私に職能技能のプロとしての世界のとらえ方を与えてくれている。一般女子大生の価値観でなく様々な技能就労者の価値観が備わっているわけだ。

これなら無理に冒険者として働かなくても、もっと一般的な仕事に就労して、装備品の購入資金に充てる手もあるな。


引き受けてしまった以上、この依頼はこなさないといけないけれど……

次の依頼を受けるまでのインターバルはそういう一般職で稼いでもいいかもしれない。

野兎のシチューを食べて、腹ごしらえを終えた私は改めてゴーレム職人の工房を目指す。まずは地上階にいる魔物を掃除するところから始めよう。

解体時に水袋に入れておいた野兎の血。これは下級の魔神への供物として使うことができる。

「異界に連なる魔のモノたちよ、この血を捧げる。我に一時の間、魔人のかいなを与えたまえ!」

魔神使いデーモンサマナー技能で自動習得された異界言語での詠唱句がすらすらと口をついて出ると私の両腕が見る見るうちに赤黒く変色し、鋭利な爪が生えてくる。

第一階梯異界魔法、【魔爪デモンズ・クロウ】。

徒手空拳で戦う格闘家グラップラー技能で振るう素手も魔神と契約すれば立派な武器になる。もっともこの魔法を使うとしばらくの間、意識が魔神に乗っ取られやすくなる欠点があるのだけど…………。


はっと、気づけば。ゴーレム職人の工房の中で私はゴブリンなどの下級妖魔の死体に囲まれて立っていた。

本来なら血だらけのはずの床が綺麗なところを見るに、契約した魔神は野兎の血だけでは足りずにこいつらの血を供物として持って行ったのだろう。

血抜きのされた死体を見る私の思考はレベル1死霊使いネクロマンサーとしてのそれにすっかり染められていた。

「にひひ。新鮮な死体、ゲット~」

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