ラ・レーヌ、ラ・レーヌ
秋山善哉
第1章
その学校には二人の女王がおりました。
一人が白神アリア、もう一人が黒ノ宮冬子。
アリアは運動が大得意で、彼女がボブヘアを揺らして走る姿は見る者を魅了しました。また、アリアは愛嬌があり明朗快活なので、誰とでもすぐに仲良くなることができました。そのような彼女が人気を集めるのは自然なことでしょう?
一方の冬子は勉強が得意で、成績は常にトップでした。冬子は家柄も良く、彼女の父は昭和初期から続く財閥の跡取りでした。しかし冬子はそのことを全く鼻に掛けず、むしろ誰に対しても分け隔てなく丁寧に接していました。そのため多くの生徒が彼女を慕い、長い黒髪をゆっくりと揺らして歩く彼女について回りました。
この二人の人気は大変凄まじいもので、時に先生ですらも歯向かえないほどです。というのも、彼女たちを批判するということは、この二人のファンである大勢の生徒を敵に回すということになりかねないからです。生徒の反感を買っては先生も仕事になりませんからね。
☆
さて、この大変人気のある二人が、ある時、密談をしました。
「冬子。ここ、座ってもいい?」
西日の当たるラウンジで冬子が本を読んでいると、アリアが声を掛けました。もう大半の生徒が帰宅し、学校の中は水を打ったように静かでした。
「いいですよ。アリアさん」
冬子が本をパタンと閉じます。
彼女たちが直接話すことは滅多にないことでしたが、いつも水面下で敵対視し、一方で自分にはない強みを持った人間として互いに敬意を持ってもいました。
「今日は何の御用事ですか?」
「ねえ、冬子。いい加減、白黒はっきり付けない?」
アリアは冬子の前に座ると、唐突にそう切り出しました。
「どういうことですか?」
「分かってるでしょ? どちらが本当の女王か決めるってことよ」
「ふふ、面白いですね。でもどうやって決めるんですか?」
今まで二人は密かにしのぎを削り合ってきました。テストの点数、体力測定の結果、告白された回数。色々なものを比べてみましたが、なかなか決着はつきませんでした。
「例えば、男の子をどっちが先に口説けるか、とかは?」
なかなか面白い案だと冬子は思いました。二人とも自分から恋愛を仕掛けたことなどありません。そういう意味では未知数です。だけれど冬子は少し不満でした。
「……アリアさんは口説けないと思いますか?」
「いいえ」
つまりどちらにとっても、男性を口説くことは赤子の手を捻るように簡単で、張り合いに欠けるのです。
その冬子の考えを察したアリアは可愛らしく首を傾けました。そしてしばらくの間考えてから、ポンと手包みを打ちます。
「女の子を口説くっていうのはどう!」
「面白そうですね」
「そうでしょ?」
「それでどの女の子が標的なんですか? アリアさんが選んでいいですよ?」
「三組に鈴木千佳ちゃんっていう大人しいけど可愛いらしい子がいるの。どう?」
「はい、知ってますよ。その代わり、口説いた方はちゃんと責任を持ってお付き合いしましょうね」
「もちろん! 期限は三か月。三か月後の今日、どっちと付き合いたいか聞きましょう」
「いいですよ」
こうして女王と女王の戦争が始まったのです。
☆
一方、平々凡々の千佳さんは、いつも通りトレードマークの長いお下げ髪を揺らして児童館の子どもたちと鬼ごっこをしていました。彼女はまさか自分が鬼ごっこよりも、ずっと恐ろしい遊びに巻き込まれているとはゆめゆめ思っていませんでした。
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