第200話 センパイ、後輩を想う
《ローエン・ステラジアン
「 イ 」「 ヤ ――ッ!!!」
……一字一句、声を大にして叫ぶコルシカ。
そして地面に寝そべりってジタバタと暴れ、子供のように駄々をこね始める。
「ヤですッ! 絶対にヤッ! こればっかりは、センパイのお言葉でも聞けませんッ!」
「コルシカよ……言ったろう。〝王位決定戦〟に参加するのは、もはや危険だと」
「センパイのお心遣いには感謝いたします! 本当の本当に、センパイは後輩想いの素敵お方だと尊敬しますッ! 流石です! 私の自慢のセンパイですッ!」
う、うむ? そうか?
そこまで言われると、あまり悪い気も……。
――いや、いかんいかん。
照れてどうする、ローエン・ステラジアン。
俺は今日、コルシカを止めに来たのだぞ。
彼女を――〝王位決定戦〟から離脱させるために。
「お前も知っての通り、ビクトールが何者かに殺された。まだ犯人は見つかっていないが、俺のクラスメイトの話だと〝王位決定戦〟の参加者は狙われる可能性が高いらしい」
カーラは俺に忠告してくれた。「コルシカって子に注意喚起した方がいい」と。
あくまで念のため、と彼女は言っていたが……あれほど手練れの
それを聞いた瞬間、俺はコルシカを〝王位決定戦〟から離脱させようと決めた。
「……俺は、お前の命が狙われるような事態になってほしくないのだ」
「……う、う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛~~~!」
俺が諭すように言うと――突然、コルシカはボロボロと泣き始める。
「!? コ、コルシカ!? 何故泣くのだ!?」
「やっぱりセンパイはお優しいですッ! 私、感動しました! 私を心配してくれるセンパイは、いつまでも私の憧れの人ですッ!」
ボタボタと涙を流しながら嬉しそうに話すコルシカ。
なんとも器用な子であるな。
「ですが! それ故に! 私は
コルシカは立ち上がってシュバッとポーズを取り、両目の☆を煌かせる。
「センパイがお一人でミノタウロスを倒したあの日から、センパイはずっと私の目標です! 私はセンパイに追い付くために、トップアイドルを目指し続けてきたのです!」
「俺に追い付く……? それなら、お前はとうの昔に追い付いているだろう。一年前、お前は俺と同じようにミノタウロスを倒したではないか」
「いいえ! それではダメです! ダメ
ブンブンと首を振るコルシカ。
俺は彼女の言っている言葉が飲み込めず、困惑してしまう。
しかしコルシカは話を続け、
「私がミノタウロスを倒した時……〝職業騎士〟の皆は、私を
「――! それ、は……」
「あの時、知ったのです! 私がセンパイに追い付くには――センパイも成し得なかったなにかを成し遂げ、記録を刻み、先駆者の一人にならねばならないとッ!」
雄弁に、彼女は語る。
……二番目、か。
そうか、そうだったのか。
だからこんなにも、一年の〝
――俺が初めてミノタウロスを一人で討伐した時、皆に言われたモノだ。
〝偉業〟だと。お前は〝職業騎士〟の歴史に名を刻んだのだと。
誰もが俺を褒め称えてくれた。
……今思えば、あの時からオードラン男爵に負けるまで、俺はどこか
コルシカは、あの時の俺の背中を見ていたはずだ。
だから同じようにミノタウロスを倒して見せたが――それはもはや〝偉業〟ではなくなっていたのだろう。
俺が、前例を作ってしまったことで。
コルシカはそれに気付いたのだ。
だから「
「見ていてくださいセンパイ! 私はこの学園の〝
「コルシカ……お前は……」
「ですから――私のアイドル活動、どうか最後まで見守っていてはくれませんかッ!?」
少しもブレることなく、俺の目を見つめて言ってくるコルシカ。
……。
…………。
まったく……どこまで真っ直ぐなのだ、お前は。
その高潔な魂は、既に俺と並んでいる――いいや、俺などよりずっと高みにいるではないか。
もっとも、そう言ったところでお前は聞き入れまい。
ならば――
「……わかった、いいだろう」
「――! ということは……!」
「そこまで言うなら、止めはすまい。お前の言うアイドル活動……存分に頑張ってみろ」
俺が応援してやることを決めると――コルシカは今日一番、目の☆を輝かせて見せた。
「うおおおおおッ! 私は! 最強無敵の! 頂点トップ無双アイドルになりまぁすッ!!!」
身体全体で喜びを表現するコルシカ。
やれやれ、やはり俺はこの子に甘いよなぁ……。
「だが、もう一度言っておくぞ。もしもお前の身に危険が迫ったら――」
「ハイ! 無限のアイドル☆パゥワーで薙ぎ払いますッ!」
シュバッと手を上げ、コルシカは元気よく答える。
その答えを聞いて、俺は頭を抱えた。
やれやれ……本当に、何事も起こってくれなければいいが……。
――――――――――
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