第199話 兄から弟への問い


《イヴァン・スコティッシュ視点Side


 ――ビクトール・ローザンが死亡した後の経過を話そう。


 まず当然の事として、彼の死はローザン子爵家へと伝えられた。

 その凶報を受けたローザン子爵家当主は嘆き悲しみ、同時に激怒。

 王立学園に多額の賠償金と犯人確保を強く要求し――さらに〝王位決定戦〟の取り止めも求めてきた。


 嫡男が学園内で何者かに殺されたとあっては、これも当然の反応だろう。

 去年もミケラルド・カファロが死亡するという出来事があったが、アレは当のミケラルドが〝呪装具〟を見に着け、ライモンドに協力していたという過失があった。

 故にカファロ侯爵家は、必要以上に学園側を責め立てることができなかったが――今回は話が違う。


 少なくとも死亡時点で、ビクトールにはなんの過失も認められなかった。

 つまり純粋な被害者だったのだ。


 こうなると、学園側は自分たちの落ち度と認めざるを得なくなる。

 実際ファウスト学園長はローザン子爵家への賠償を承認し、犯人確保も約束。

 カーラが提言したように、一年たちの〝王位決定戦〟もこのまま中止になるかと思われたが――



『――〝王位決定戦〟の中止など認められません。絶対に続けるべきです』



 一年各クラスの〝キング〟に対して行われた説明会の中で、最初にそう言い返したのは……ユーリだった。


 ユーリは断固として中止を認めず、〝王位決定戦〟の継続を主張。

 それに続いて、他クラスの〝キング〟もユーリに賛同。


「ユーリさんの言う通りですッ! アイドルの頂点は誰なのか、決めるべきですねッ!」

『肯定。このままでは、なんのために苦汁をなめたのかわかんねーだろうが、でございます』

「う~ん……私は中止にした方が~いいと思いますけどね~」


 ……最終的に〝王位決定戦〟の継続に難色を示したのは、Dクラスのエレーナ・ブラヴァーツカヤ一名だけだったという。

 それでも結局は他の〝キング〟や、スティーブンを始めとしたDクラスのクラスメイトたちに押し切られる形で、彼女も渋々継続に同意。


キング〟たちがその調子であるため、一年生全体のほとんどが継続を支持する流れに。

 中には「中止を支持するのは臆病者」と宣う過激な者まで現れる始末。

 ……貴族や騎士にとって、面子というのは時に命よりも重くなるモノなのだ。


 結果、学園側もやめるにやめられなくなり――〝王位決定戦〟は、続行されることとなってしまった。


 それが――僕がユーリを呼び出す・・・・に至るまでの、事のあらましだ。



「……こんなところに呼び出して、なんのご用ですか――お兄様」



 学園の中でも、最も人気の少ない校舎裏の物置の傍――。

 そこへやって来たユーリは、開口一番に言う。


「決まっているだろう、〝王位決定戦〟の件についてだ」


 物置の壁にもたれかかりながら、僕はユーリの問いに答える。


「〝王位決定戦〟の継続を、真っ先に支持したそうじゃないか……。一体どういうつもりだ?」


「私は――私が一年の〝キング〟となるために、必要な主張をしたまでのこと」


 ユーリは僕と目も合わそうともしないまま、冷たい声で言う。


「学園の王座を我が物とするために、まずは一年を支配する必要がある。そのためには、〝王位決定戦〟を中止させるワケには参りません」


「……ならば、〝王位決定戦〟の中で命を落とすことすらも覚悟の上、か?」


 冷静さ――いや、冷徹さを一切崩そうとしないユーリに対し、僕は言葉にため息を交えながら語る。


「僕のクラスメイトが言っていたよ。……このままでは、他にも犠牲者が出る可能性がある――とな」


 カーラは言っていた。

 このまま〝王位決定戦〟を続ければ、他の〝キング〟も狙われるかもしれないと。

 彼女は「あくまで根拠のない推測」とは言っていたが、おそらく暗殺者アサシンの直感が彼女に告げたのだろう。


 僕もその推測は正しいように感じる。

 ビクトールが死んだ時期や殺され方を鑑みても、無関係というのは考え難い。

 もし私怨による殺人や事故なのだとすれば、幾らなんでもタイミングが出来すぎている。


 犯人は――〝王位決定戦〟の関係者を狙っている。

 それはつまり……ユーリも狙われるかもしれない、ということだ。


「……悪いことは言わん。〝王位決定戦〟を辞退し、その中止を学園に進言しろ。手遅れになる前に」


「……」


 ユーリは僕と目を合わせないまま、沈黙する。

 そしてしばしの時間が経った後、


「……もしも、王立学園へ入学する前のお兄様に同じことを言ったら――お兄様は、素直に従ったでしょうか?」


「……」


「お兄様にもわかっているはずです。ここで身を引いたとあっては、スコティッシュ公爵家の名に泥を塗ることになると。私には、そんな真似はできません」


 決意に満ちた声色。

 どうやらユーリの意志は揺るがないらしい。

 こういう頑固のところも……僕にそっくりかもしれないな。


「お兄様は……本当に変わられてしまいました。僕の知るイヴァン・スコティッシュお兄様なら……絶対に、辞退しろなどとは言わなかったのに」


 失望したという態度を隠そうともせず、ユーリは言う。

 そんな弟に対し――僕はニヤリと微笑した。


「そうだな、僕は確かに変わった。だが――〝変わる〟というのは、果たして悪なのかな?」


「え――?」


「もう一つ、ユーリに問うておこう。お前はスコティッシュ公爵家が己の全てであり、スコティッシュ公爵家がなければ自分は生きていけないと思っているのだろうが……本当にそうか?」


 僕は壁から背中を離し、歩き出す。


「人間という生き物は、一度手に入れたモノは中々手放せない性分なのだそうだ。生活であれ、権利であれ、富であれ……。それ・・がなければ、自分は生きられないと無意識に思ってしまう。手放せば――自分は終わりだと」


「……? なにを……言って……?」


「だがな、人生というのは――案外と〝なんとかなる〟モノなのだ」


 そう言って――僕はユーリの正面に立つ。

 しっかり、弟と目が合うように。


「……僕が失脚してからというもの、跡を継いだお前がどんな想いで今日まで生きてきたのか……僕には推し量ることさえできない。だが、さぞ大変だったことだろう。――すまなかったな……ユーリ」


「――! お兄様……!」


「お前が覚悟の上だと言うのなら、もう〝王位決定戦〟に関して口出しはしない。だがその決意は〝ユーリ・スコティッシュ〟の意志なのか――それとも〝ユーリ〟の意志なのか……今一度、己に問うてみるといい」


 できるだけ落ち着いた声で、僕はユーリにそう伝えると――「手間を取らせたな」と、その場を後にした。


 

――――――――――

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