第126話 処刑姉妹


《カーラ・レクソン視点Side


 ……レティシアちゃんの考案した作戦……というより戦術・・はこうだ。


 二人一組ツーマンセルでチームを三つ作り、ダンジョン内にて三方向に展開……。


 まず一つ目のチームが攪乱・陽動、二つ目のチームが遅れて側面攻撃……。

 そうしてAクラスの生徒たちが気を取られている間に、三つ目チームが敵陣の背後に潜入・浸透する……。


 ……これがレティシアちゃんの考えた、戦術プランA・・・・


 Aクラスの〝キング〟が自陣から動けない内に、素早く首を取ってしまおうって寸法だ。


 そしてその〝キング〟の首を狙う役割が、私とシャノアちゃんのチーム……。

 まさに適任だよね……。


「カ、カーラさん……! ま、待ってくださいいいいぃぃぃ……!」


「……急ごう、シャノアちゃん……私たちのチームは速度が命だよ……」


「カァー!」


 やや遅れがちなシャノアちゃんを、少しでも急がせる私とダークネスアサシン丸。


 でもしょうがないよね……シャノアちゃんはそもそも、運動があまり得意ではないし……。


 それに彼女自身、今回は立派な戦力となるべく〝大きなスーツケース〟を持参している。


 四角くて大きな革製のスーツケース

 あんなに重くて嵩張る物を持っていたら、素早く動こうにも動けないだろう。


 ……アレ・・は、彼女の努力の集大成。

 少しでもレティシアちゃんたちの役に立とうと、彼女が培ってきた彼女だけの新しい力。


 本来なら攻撃より防衛に向いているけど、それでも扱い方次第では十分に力を発揮できるはず。


 頼りにしてるよ……シャノアちゃん……。


 そんなことを思いつつ、私はダンジョンを奥へ奥へと駆け抜けていくが――。


「……! 止まって、シャノアちゃん……」


 あるモノが視界に入り、すぐに足を止める。

 同時にシャノアちゃんのことも停止させた。



「「…………嬉しいな、嬉しいな♪」」



 ――ザリザリ、ザリザリ


「「アンヘラに会いに来てくれたの? それとも、ディアベラに?」」


 ……全く同じ声が、二重に被って聞こえる。


 同一人物が一度に二回音声を発しているとしか思えないほど同調の取れた、不気味な声……。

 まるで一人の人物に口が二つあるみたい。


 でも……私の目には、ハッキリと二つの人影が映っている。


「「首がひと~つ、首がふた~つ……♪」」


 ――ザリザリ、ザリザリ


 とても重量のある金属が、地面の上を引きずられる不快な音。


 その音すらも二重に被り、こちらの耳がおかしくなってしまったのかと錯覚するほど。


 けれど耳を澄まして聞くと、ほんの少しだけ左右・・で音に違いがあることに気付く。


 左は、地面に擦れる部位の少ない長大な剣――切っ先のない〝処刑刀〟。


 右は、平べったいブレードが大きく地面を擦る両手斧――無骨な形状の〝処刑斧〟。


 どちらも斬首刑に使われる、縁起の悪い武器だ。


「「らんらん、らんらん……♪ あなたたちは二人、私たちも二人。一人一回、片っぽずつだね。らんらん……♪」」


 それぞれ片手で得物を引きずり、空いたもう片方の手でお互いの手を握り合う。


 ――〝処刑姉妹〟長女アンヘラ・シュロッテンバッハと、次女ディアベラ・シュロッテンバッハ。


 ヴァルランド王国の処刑人一族シュロッテンバッハ家に生まれた、瓜二つの外観を持つ双子だ。


 二人共お揃いの格好をしており、大量のフリルが付いた真っ赤なドレスを着て、長いブロンドヘアーをサイドテールにして結っている。


 容姿はとても可愛らしいのだが、本当に不気味なほどそっくりで、一目見るだけでは全くの同一人物としか思えない。


 しかし片方がサイドテールを右に、もう片方が左に結ってあるため、一応の判別は可能。


「……アンヘラ……ディアベラ……」


「「わあ、私たちあなたのこと知ってるよ。暗殺一家のカーラ・レクソンでしょ」」


 ――ザリザリ、ザリザリ


 小柄な二人は手を繋いだまま、処刑刀と処刑斧を引きずって近付いてくる。


「「嬉しいな、嬉しいな。私たちと同じ血の匂いがするよ。あなたも私たちとおんなじだ。嬉しいな」」


「……同じ、か……。そうね……確かにあなたたちと私は……結構同じ・・かもしれない……」


 ……否定はしない。

 彼女たちの言う通り、私たちは同じ匂いを身にまとっている。


 所謂、殺人者の匂いを。


 立場は違えど、やっていることは同じ……。

 とても同業者とは呼べないけど、以前似たようなことを言われたペローニよりはずっと近い存在だろう。


「「あなた、綺麗な首をしているのね。罪の匂いがする、綺麗な首。落っことし甲斐がありそう」」


 アンヘラとディアベラは嬉しそうにそう言うと、次にチラリとシャノアちゃんの方を見る。


 すると今度は微妙につまらなそうな顔になり、


「「でも、そっちの子は……」」


「ふぇ? わ、私のことですか……?」


「「……あんまり綺麗な首じゃない。罪の匂いがしないし、ブサイクだもの」」


「ブッ、ブサ……!?」


「……安心してシャノアちゃん。アレは逆にいい意味だから……」


 ガーン! ……とショックを受けるシャノアちゃんを慰める私。


 でもショックを受ける必要なんてない。

 ……罪の匂いがしない、血の匂いがしないという意味だからね……。


 アンヘラとディアベラは、それを独特な感性でもって〝綺麗じゃない〟と表現しているだけ。


 だからシャノアちゃんの出自を考えれば、むしろ誇りに思うべきじゃないかな……。


 私は改めてアンヘラとディアベラを見据え、


「……どうして、私たちの居場所がわかったの……?」


 尋ねる。


 ……早すぎる。遭遇エンカウントが。


 この洞窟ダンジョンはそこそこ広いし、中は入り組んでいて地形も複雑。


 加えて私とシャノアちゃんのチームは、他の二つのチームとは異なり大幅な迂回ルートを進んでいる。


 それなのに偶然……しかも丁度二対二・・・となるように遭遇エンカウントするなんて、そんなことがあるだろうか……?


「「知らないわ。私たちはロイドの命令でここに来ただけだもの」」


「……」


「「そんなことより〝処刑〟を始めましょう。跪いて頂戴な。首を曝け出して頂戴な。斬首は楽しい楽しい娯楽だわ。らんらん♪」」


 私の質問など気にする素振りも見せず、重厚な得物をユラリと構えるアンヘラとディアベラ。


 …………Fクラスこちらの動きが、Aクラスに筒抜けになってる。


 おそらく試験を監視している何者かが、なんらかの手段を使ってAクラスの〝キング〟に情報を伝えているのだろう。


 洞窟ダンジョンに潜り込んだ部外者か、それとも買収された教師か……。


 ともかく、これで私たちが敵陣の背後に回り込むのは無意味になった。


 仮に回り込めても、奇襲が仕掛けられない。

 動きがバレているのだから。


 レティシアちゃんの戦術プランA・・・・はご破算。

 残念だけど、最もスマートな形で勝つことは早くも不可能となってしまった。


 ……でも、この事態もレティシアちゃんは織り込み済み・・・・・・


「……シャノアちゃん、プランA・・・・は失敗。私たちの動きがAクラスにバレてる……」


「! そ、そんな……!」


「たぶん、レティシアちゃんたちもすぐに気付くと思う……。だから――今からプランB・・・・でいくね……」



――――――――――

※重 大 発 表


この度――

『怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました』

の書籍化が決定いたしました!!!🎉


※追記

Amazonにて予約が始まりました……!

https://kakuyomu.jp/users/mesopo_tamia/news/16818093076208014782


近況ノートにて詳細を掲載しております!

みんな見て……!🤣↓

https://kakuyomu.jp/users/mesopo_tamia/news/16818093076167158838


初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)


☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。

何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る