第117話 ヴァルランド王家をぶっ潰せ


「王家を……ぶっ潰すだって……?」


 ――俺は、我が耳を疑った。


 何故ってそりゃ、他ならぬその王家の一員たるアルベール第二王子が言うのだから。


 この国を統治する絶対君主であり、自らの出自でもあるヴァルランド王家――それを潰すと。


 そんなの、ただの自滅願望だ。

 冗談にしても笑えなすぎる。


 しかしアルベール第二王子はニヤニヤと笑みを浮かべたまま話を続け、


「ああ……勘違いしないで頂戴ね? 〝王家を滅ぼす〟じゃなくて、あくまで〝現王家を潰す〟――。アタシまで潰してほしいワケじゃないから」


「……つまり俺に、現王家への蜂起クーデターに加担しろってことか」


「うふん、話が早い子って好きよ❤」


「突拍子もない話だが……王家へ蜂起クーデターを起こして、アンタはそれからどうするんだ?」


「や~ねぇ、そんなの決まってるじゃない」


 アルベール第二王子はスッと立ち上がり――


「アタシが! この国の〝キング〟になるのよ! 土地も民も財も、思想も信仰も権力も全てアタシのモノにする! そして、なにもかもアタシの思い通りにできる国を作り上げるの! その名も……スーパー・ビューティフル・ヴァルランド王国!!!」


 ――ビシィッとポーズを決めて宣言した。

 それはまるで演説でもするかのような、あまりにも堂々とした驕慢。


 その姿に……俺はとても萎える・・・感覚を覚えた。


「……結局、アンタも権力が欲しいだけか」


「いやん、そんな目で見ないで❤ 権力が欲しいだけじゃないわよぉ~、〝なにもかも全て〟が欲しいの!」


 まるで尻込みする様子もなく、ニコニコ笑顔で言い切るアルベール第二王子。

 だが――次の瞬間、彼の口から小さなため息が漏れる。


「……今のヴァルランド王家はね、本っっっ当にクソ豚・・・なのよ」


 ――さっきまでのハイテンションな口調からは、想像もできないほど低い声。


 そんな低い声で言葉を発すると同時に――彼の口元から初めて笑みが消えた。


「お父様は王家の保身と権力のためにお兄様を見捨てる耄碌ゴミジジイだし、お母様はお父様の言いなりのゴミバカだし、妹はおバカで傲慢で意味のわからないことばかり考えてるゴミカス……。まとも・・・なのはお兄様くらい」


「……」


「アタシはね、ヴァルランド王家が大嫌い。反吐が出るほど大っ嫌い。アタシとお兄様を除いて、あんな王族なにもかも消えてなくなればいい」


 とても冷淡で、極めて強い侮蔑の感情が込められた声――。

 その口調からは、彼がどれほど自分の家族を憎んで嫌っているかが強烈に伝わってきた。


 おそらく……とても一言では言い表せないほど、深い確執があるのだろう。


 世界で一番家族レティシアを愛している俺には、到底理解できないが。


「……アンタの家族嫌いはよくわかった。だが、その家族喧嘩で国を滅茶苦茶にするつもりか?」


「まっさか~。アタシってほら、デキる王子だから! 無為に戦火を広げたりしないし、重税で民を苦しめたりしないし、古臭い階級社会もいずれ変革していくつもりだし? こう見えてホワイトな理想の王様目指してるから、付いてきてくれればいいこといっぱいよ❤」


 再びハイテンションな口調に戻り、ルンルンとスキップを踏みながら勧誘してくるアルベール第二王子。


 ……凄いテンションの温度差だ。

 落差が激し過ぎて、傍にいるだけで風邪ひきそう。

 一緒にいて滅茶苦茶に疲れるな……。


 にしても……本当にコイツを信用して大丈夫なのか……?

 家族を潰すために蜂起クーデターを起こすなんて、どう考えたって危険人物だ。


 でもレティシアのことだし、アルベール第二王子の性格とか家族関係もわかった上で手紙を送ってそうだしなぁ……。

 う~ん……。


「あらあら、まだ決断できない? それじゃ~あ、決断したくなること言ってあげましょうか」


「なに?」


「……レティシアちゃん、狙われてるわよね。ウチのゴミカスウジ虫の妹に」


「――――ッ!」


「あのゴミ妹ってば、なんでか知らないけどあなたたち夫婦にお熱なのよねぇ。これまでも色々ちょっかい出してたみたいだし~?」


 アルベール第二王子は如何にも惚けた感じで言う。

 いや……たぶん全て知った上で話しているのだろう。


「ま、ハッキリ言って今回あなたを捕まえたのは悪手・・だけど。自分から付け入る隙を作ってくれたワケだから」


「……妹を権力争いから蹴落とすための大義名分に、俺を利用しようってか」


「ウフフ、利用だなんて~。お手々取り合って協力し合うって言ってよぉ~ん」


 あくまでニコニコ笑顔――いや、ビジネススマイルを崩さずに言うアルベール第二王子。

 まったく……食えない奴だよ、アンタ。


「それに、アタシが善意で動くような博愛主義者にでも見える? 相互利益にならないなら助ける意味はない。大事なのは利害の一致――。そういう冷た~い考え方は、あなたにだって理解できるんじゃなくって?」


「……」


「あなたとアタシは、案外ご同類・・・だと思うけれどね」


 ――とても確信めいた言い方。


 ご同類・・・、か……。

 確かに俺もアンタも、どっちかと言えば悪党側だろうな。


 そんな悪党同士が出会って、国を揺るがす蜂起クーデターの首謀者になるとか……一体なんの因果なのかね。

 

「それにほら、アタシはレティシアちゃんになんの恨みもないし? あなたの大事な奥さんに危害を加えたりしないわ~❤」


 アタシは敵じゃないわよ~、とアピールするように猫撫で声を出すアルベール第二王子。


 ……これまでの話しぶりから察するに、彼は極めて利に聡い。


 いい意味でも悪い意味でも頭がよく、野心家であるが故に悪知恵が回る。

 それでいて、自らが嫌う相手には容赦ない。


 ……確かに、どちらかと言えば俺側・・の人間だな。


 だからこそ俺を利用できると判断した。

 そしてきちんとお互いにメリットがあることを理解し、その上で俺を誘っている。


 当然――〝断る〟という選択肢がないことも理解した上で。


 きっとレティシアも、こうなることを予測していたと思う。


 だが……ぶっちゃけ俺は蜂起クーデターなんてどうでもいい。

 アルベール第二王子がこの国の新しい国王になるかどうかなんて興味ないし、勝手にしてくれればいい。


 俺にとって大事なのは、レティシアの敵を滅ぼすことだ。

 大事な大事な妻を破滅させようとする奴を全員、この世から消し去ることだ。


 だから――エルザ第三王女をぶっ殺せるというなら、アルベール第二王子に協力する幾億もの理由足り得る。

 それだけだ。


「……わかった。アンタに協力する」


「うふん、そうこなくっちゃ❤ それじゃ――交渉成立、ね」


 なんとも含みのある、けれど嬉しそうな笑みを見せつつ手を差し出してくるアルベール第二王子。


 俺は鉄格子の隙間から腕を伸ばし――彼の手を握った。



――――――――――

「アルベール第二王子をアクの強いキャラにしたかった」

それだけなんです……だから国家反逆罪で捕まえないで……。

 __[騎]

  (  ) ('A`)

  (  )Vノ )

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