第116話 第二〝王子〟


「――ハァロゥ・エブリワァ~ン! クソ豚な王家へ叛逆を企てた、愛しい愛しいアルバン・オードランちゃんの豚箱はここで合ってるかしらぁ~ん❤」


 ――そんな第一声と共に、俺や看守の前に姿を現した女性・・


 明らかに染色していると思しきパープルのロン毛、

 まつ毛バチバチで左右の耳にもピアスバチバチ、

 お化粧ばっちりでフリフリな高級ドレスを着ており、さらに口元には濃い発色の赤紫の口紅――。


 まあ、美人である。

 だが女性にしては身長が高いかな?


 プロポーションがいいと言えば響きはいいが、些かガッチリめな体型をしているとも言えるかもしれない。


 あと女性としては、ちょっと声が低めかも?

 綺麗な声ではあるけど。


 そんな彼女は異様に高い踵のハイヒールでカツッカツッという上品な足音を奏で、配下と思しき騎士を連れてこちらに近付いてくる。


「ッ!?!? あ、あなた様は……!?!?」


「看守ちゃんたち、お仕事ご苦労さま❤ 悪いけどぉ~、ちょっと席を外してくれるかしら~?」


「い、いやしかし、しっかりと見張っておけとエルザ第三王女からのお達しで……」


「ふぅん? 歯向かうってい・う・な・ら……あなたたちお二人様、今夜アタシの寝室にごあんな~い❤」


「ヒッ……!? も、申し訳ございませんでしたあああああああああッッッ!!!」


 脱兎の如く俺たちの目の前から逃げ失せる看守二人。


 女性は護衛の騎士たちも退散させると――クルッと俺の方を見る。


「うふん❤ あなたがアルバン・オードランちゃんねぇ~? 可愛いお顔してるじゃな~い」


「え? は、はぁ……」


「残念だわ~。妻帯者じゃなければ、アタシの愛しい愛しいペットちゃんたちの一員に加えてあげたのにぃ~」


 胸の前で両手の指を組み、ふるふると頭を左右に振って「ハァ~」と深いため息を吐く女性。


 この女……何者だ?

 身なりにしても、護衛の騎士を引き連れていたことにしても、間違いなく貴族の中でも上流の身分。


 それにさっきの護衛の騎士たち――胸元に王家を守る者の証である金鷲勲章を備えていた。

 つまり〝王家特別親衛隊〟の騎士たちだ。


 ってことは、彼女は王家の人間ってことになるが……今の王家ってあの女エルザ以外に王女なんていたっけ?


 いや、王家の中でも分家に当たる人物って可能性もあるけどさ……。


 ともかく、男爵の俺からすれば目上の人ってのは確実。

 一応は敬って話すか……。


「えっと……お姉さん、何者――ですか?」


「うん? お姉さんってアタシのこと?」


「いや、あなた以外この空間に女性がいないんですけど……」


「あらあら……アッハッハ! おべっかが上手い子ねぇ~❤ アタシ〝お姉さん〟なんかじゃないわよぉ~」


「へ?」


「アタシが誰かわからない? それじゃあ〝世界一綺麗なお姉さん〟って呼んでくれたらヒントあげちゃう!」


「え~、世界一はちょっと……。世界で一番綺麗なのは俺の妻なんで、世界で二番目じゃダメですか?」


「あら~愛妻家なのねぇ~。一途で可愛い~、ウフフ❤」


「いやぁ、それほどでも。アッハッハ」


 声を上げて笑い合う俺たち。


 うーん、なんだろう。

 この人とは波長が合うかもしれない。


「それじゃアルバンちゃんの一途で可愛い性格に免じて、特大ヒントあげちゃおっかな~。ヴァルランド王家第二王子のお名前って、な~んだ?」


「……? アルベール・ヴァルランド第二王子ですよね?」


「はい正解! アタシこそが、そのアルベール・ヴァルランドでぇ~す! よろしくねぇ~❤」


「………………は?」


 ――俺の思考が一瞬止まる。


 アルベール第二王子?

 この人が?

 それっておかしくね?


「あの……アルベール・ヴァルランドは〝王子〟のはずで、あなたはどう見ても女性――」


「だ・か・らぁ~、アタシは〝男〟よ。お・と・こ! れっきとした王子なの!」


「………………………………………………………………………………………………………………………………え?」


「うふん、いいリアクション❤ それじゃ確かめさせてあげるから、お手々だして」


「……? こ、こうですか……?」


 俺は促されるまま、鉄格子の隙間から右手を伸ばした。

 ――伸ばしてしまった。


 直後、


「えい❤」


 彼女――いや彼は俺の右手を掴み、自らの〝股間〟へ突っ込ませる。


 刹那――――手の平に伝わってくる、ムニュッとした突起物へ触れる感覚。


 それは、

 そう、

 間違いなく、

 疑いようもなく……


 男のモノ・・を握った、あの感触。


 その感触を脳が認識した瞬間、俺はつま先から頭のてっぺんまでゾワッッッという鳥肌が立ち、顔が真っ青になったと自覚できるほどに血の気が引き切った。


「う…………うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!! おおおおォォォああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」


 触れた。

 触れてしまった。

 触れたくもない、男のモノ・・に。


 俺は監獄全域に響いたと思えるほどの絶叫を奏で、その場に膝と手の平を突いてがっくりと頭を垂れる。


「うふん、アタシに触れたのがそんなに嬉しかった?❤」


「…………死にたい。死のう。このまま殺してくれ……もうレティシアに顔向けできない……」


「や~ね~。別に浮気したワケでもなんでもないんだから、そんなに落ち込まないの❤ それにホラ、男同士〝股間の付き合い〟って言うでしょ?」


 言わない。

 そんな言葉知らない。

 知っていたとしても、無関係な人生を送りたかった……。


 などとショックのあまり茫然自失となる俺だったが――アルベール第二王子はスゥッと小さく息を吸い、


「さて……ご挨拶も済んだところで、ちょっと真面目なお話しましょうか」


「え……?」


 彼は膝を曲げ、俺と目線の高さを合わせる。

 そして頬杖を突き、


「ねえアルバンちゃん――ここから出してあげるわ」


 そう切り出した。


「な――に――?」


「実はあなたの奥さん……レティシアちゃんからお手紙頂いててね~? 夫を牢屋から出してあげて欲しいって」


 レティシアが……?


 ――そうか、これが彼女の考えた作戦。

 エルザ第三王女と同じレベルの権力を持つ人物を味方に付け、俺を救出する。


 アルベール第二王子とエルザ第三王女の権力・権威はほぼ同格。

 これならばエルザ第三王女との政争でも、こちらが簡単に負けることはない。


 アルベール第二王子が邪魔に入るとなれば、幾らあの女が騒ぎ立てても俺がすぐに断頭台へ送られるような事態にはならないだろう。


 そんなアルベール第二王子を味方に付けるとは、流石レティシアだ。


 にしても、よくアルベール第二王子も俺を助けると決めて――。


 ――俺は内心でそう思っていたのだが、彼の口元が突如ニィッと歪む。


「ただし……無料ロハで助けるってワケにもいかないのよね」


「え――?」


「ねえアルバンちゃん――あなた、クソ豚な王家を本気でぶっ潰す・・・・気はなぁい?」



――――――――――

※お詫び

これまで投稿した複数の話において〝ヴァルランド〟が一部〝ヴァイラント〟と表記されてしまっておりました……。

混乱を招いてしまい誠に申し訳ありません……!

なんでこんな誤記に気付かなかったんや……!( ´•̥̥̥ω•̥̥̥` )


初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)


☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。

何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m

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