第99話 格の違い
「それじゃあお姉さん――
ラファエロの
小柄な身体はジャッカルのように俊敏で、一撃でエイプリルの首を落としにかかる。
しかし――。
「――やらせるワケねぇだろうが」
そしてほとんど同時に重心を崩され、気が付けばマティアスに抱きかかえられていた。
「きゃ――あ――っ!?」
「悪ぃけどな、俺の大事な〝花嫁〟には指一本触れさせねぇよ」
――ラファエロの身体能力、というより戦闘力は決して低くはないだろう。
身のこなしを見ても、自分が小柄・非力であることを理解しているが故に、機動力を生かして一気に暗殺を終わらせようとしていることがわかる。
が……マティアスには通用しないだろうな。
「よっと」
マティアスはエイプリルを降ろすと、コキコキと首を鳴らす。
「エイプリル、ちょいとそこで待ってな」
「え……マ、マティアス様……?」
「手癖の悪いガキんちょに、世の中の広さってヤツを
エイプリルを背にして、ラファエロへとゆっくり歩み寄っていくマティアス。
その表情には焦りが見られず、余裕すら感じられる。
「……お兄さんて、おバカさんなの? 丸腰で
まるで焦りを感じさせないマティアスの様子を流石に不審に思ったのか、チラッと周囲の状況を確認するラファエロ。
俺はレティシアを守るので手が離せないし、カーラを始めとしたFクラスメンバーも暴徒化した貴族たちと絶賛乱闘中。
とはいえ、あと数分もあれば鎮圧できるだろう。
レオやイヴァンが手際よく貴族たちを気絶させてるし、エステルなんか「私とお喧嘩するなんて百億兆万年早ぇですわ! しゃおらぁ!」とか叫んで貴族相手にジャーマンスープレックス繰り出してるしさ。
Fクラスメンバーは日頃から鍛えてるだけあって、丸腰でも遅れを取ることはないってことだ。
――邪魔が入ることはない。
しかしこの混乱が続くのは残り数分――。
ラファエロはそう判断したらしく、
「……くふふ、僕は〝花嫁〟だけ仕留められれば満足なんだけどなぁ。そんなに死にたいなら、お兄さんを先に殺しちゃうよ?」
鈍く光る
だがそんなラファエロをマティアスは「ハッ」と鼻で笑い、
「やれるもんならやってみな、ガキんちょ。お兄さんが可愛がってやるからよ」
指先をチョイチョイと動かし、逆に挑発し返す。
それを受け、初めてラファエロが不快そうに眉をひそめた。
「言うねぇ……それじゃあ――死ね!」
勢いよくマティアスへと襲い掛かるラファエロ。
さながら獰猛な肉食獣のような速度で、一直線に飛び込んでいくが――。
「――〔エアリアル・ファング〕」
マティアスが魔法を発動。
ダンッと靴底で床を蹴ると――そこから〝風の狼〟が飛び出してきた。
「なっ……!?」
「得物がなきゃ戦えないなんて一言も言ってねーぞ? これでも鍛えてんのは身体だけじゃなくってね」
風の狼はラファエロの
マティアスは元々
少なくとも俺は見たことないな。
だが当人が言うように、Fクラスメンバーは日々の特訓で魔法も習得していっている。
マティアス自身の純粋な魔力量はレオやイヴァンにこそ劣るが、それでも今やAランク魔法くらいなら発動できるほど。
ラファエロがどの程度俺たちのことを調べたのか知らんが、おそらく予想外の反撃だったんだろうな。
「このッ……!」
慌てて風の狼を斬り捨てるラファエロ。
そこに要した時間はほんの僅かな一瞬――だがその一瞬で、マティアスはラファエロの目の前まで間合いを詰めた。
それこそ、手が届くくらいの距離に。
「あ……え……?」
「ガキんちょ、お前
次の瞬間――パンッという甲高い音が木霊する。
それは、マティアスがラファエロの頬を
「流石にちっと生意気すぎ――な」
そう言って、不敵な笑みを浮かべて見せるマティアス。
……比較にもならんな。
個々人の実力差は、あまりにも圧倒的に開いている。
真正面からの戦いでは、ラファエロ程度じゃマティアスの足元にも及ばない。
致命的な実戦不足ってのもあるが、ラファエロは〝自分よりも強い存在に正面から挑んだ〟経験がないのだろう。
ハッキリ言って、
カーラを百点とするなら、ラファエロはせいぜい四十五点くらいかなー。
っていうか、そもそもこうして堂々と標的の前に姿を現してる時点で
どうせ姿を見せた理由も虚栄心というか、背伸びしたかっただけなんだろうし。
だからカーラにも認めてもらえないんだろうが、本人には理解できまい。
なんせ、まだ幼すぎるから。
「――」
頬を叩かれるという事態に完全に呆気に取られ、思わず尻餅を突いてしまうラファエロ。
ま、勝負ありってトコだな。
格の違いを見せ付けられて。
一方、そんな光景を見せられたナルシスはギョッとする。
「なッ……なにやってんだラファエロ!? ボケッとしてんじゃねぇ! ホントに使えねぇガキが――!」
「…………よくも」
ポツリ、とラファエロが呟く。
「よくも……よくもよくもよくもッ、よくもこの僕の顔をぶったなあああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
――――――――――
顔のいいショタをぶってはならない。
古事記にもそう書いてある。
初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)
☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。
何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます