第98話 舞踏会から大乱闘へ


「……あーあ、つまんないの」


 ――会場の片隅から、そんな声がする。

 まだ幼い、少年の声が。


 直後、マティアスたちの舌戦を見物していたドレス姿の少女・・が、前へと歩み出る。


 フワリとしたフリルの付いたドレスと、ウェーブがかった長く綺麗な金髪。


 一見しただけでは、どこからどう見ても高位階級貴族の可愛らしい息女にしか見えないが――。


「こんなはずじゃなかったのになぁ。もっと盛大に破滅してくれることを期待してたのに」


 少女の喉から発せられる声は、やや甲高く中性的ではあるが確かに少年のそれ。


 だが――そんなことはどうでもいい。


 俺はハッキリと感じ取った。

 その声に、ドス黒い殺気が込められているのを。


「ラ、ラファエロ! テメェ、見てないでなんとかしろッ!」


 少年の声の少女に対し、ナルシスは焦り切って命令。

 どうやらコイツらには繋がりがあるらしい。


 ふぅ、と少年の声の少女はため息を漏らし、


「ま、いっか。今の方が――〝花嫁〟が死んだ時のショックも大きそうだし」


 フフッと不気味に笑う。

 直後、カーラがハッとした様子を見せる。


「その声……ラファエロって……まさか……!」


「――〔影操・傀儡くぐつまわし〕」


 ――魔力の反応。

 それも凄まじい魔力量の。


 少年声の少女がなんらかの高位魔法を発動したと理解した俺は、すぐに動こうとする。


 このガキは――だと判断して。


 しかし、


「う…………うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 突如、会場にいた貴族の一人が奇声を発する。

 そして――レティシア・・・・・へと襲い掛かった。


「おおおおおああああああああッ!」


「――っ!?」


 正気を失ったように雄叫びを上げて突撃してくる貴族。

 あまりに突然の出来事に、レティシアは身体を硬直させてしまう。


「レティシアに近付くな」


 俺は即座に標的を変更。

 彼女へ襲い掛かった貴族を殴り飛ばす。


「ぐあッ……!」


 顔面を思い切り殴打されて吹っ飛び、そのまま気を失う貴族。


 レティシアに襲い掛かかった時点で死罪に値するので殺したかったのだが、一応は貴族だしマティアス派でもあるからな。


 殺しては後々面倒になるので、手心は加えておいた。

 それでも鼻の骨は折れたと思うが。


「うがああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


「きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!!」


 レティシアへ襲い掛かった貴族を皮切りに、他の貴族たちも次々と奇声を発し始める。


 目の焦点が定まらず、まるで糸に操られる人形のような挙動――。


 間違いない、精神操作系の魔法だ。


 それもどうやら……会場にいる貴族の半数以上が、その魔法にかかってしまったらしい。


 貴族たちは瞬く間に暴徒と化し、俺たち夫婦やマティアスたちへと襲い掛かってくる。


「マティアス! エイプリルを守れ!」


「わ、わかってる! この野郎っ、近付くんじゃねぇ!」


 素手で応戦し、必死にエイプリルを守るマティアス。


 俺もレティシアに近付いてくる者たちを薙ぎ倒し、彼女の身の安全を確保。


 Fクラスメンバーも貴族たちと乱闘になり、舞踏会は戦場と化す。


 奇声と怒号と悲鳴があちらこちらで上がり、先程までの優雅な雰囲気が嘘のようだ。


「くふふ……いいねぇ、やっぱり〝踊りワルツ〟はこうでなくっちゃ」


 なんとも楽し気に笑う少年の声の少女は、おもむろに両手を頭へと伸ばす。

 そして被っていた金髪のカツラが外され――短い黒髪が露出した。


「――どうかな、カーラお姉ちゃん? 僕の変装、見破れなかったでしょ?」


「ラファエロ……! どうしてあなたがここに……!」


 正体を現した少年を見て、珍しく驚愕した表情を見せるカーラ。


 〝お姉ちゃん〟――ってことは姉弟なのか?

 確かに髪の色といい瞳の色といい、幾らか似てる気はするな。


 でもって姉弟ということは……あのガキもレクソン家の一員ってワケか。


 国王の懐刀であり、ヴァルランド王家が唯一正式に認可する認可する暗殺一家――。


 その血族ってことは、アイツも暗殺者アサシンってことだ。


 なるほど、今まで上手いこと存在感と殺気を隠していたんだな。

 カーラの弟ってだけはある。


「レクソン家がナルシスに組するなんて……そんな話は聞いていない……! これはお父様が引き受けた依頼なの……!?」


「お父様たちは断ったよ。この依頼は、僕が個人的に引き受けたんだ」


「なんですって……!?」


「僕の暗殺者アサシンデビューに丁度いいと思ってさ。それにカーラお姉ちゃんを相手に依頼を達成できたら、レクソン家の皆も僕を認めてくれると思って!」


 無邪気な笑顔を振りまくラファエロという少年。

 その顔は無垢な美少年そのものだが――頭のネジが外れているのだけは確かだろう。


 そんなラファエロの発言を聞いたカーラは、


「……やめなさいラファエロ……教義にもとる暗殺は、レクソン家にとっての恥……。こんな勝手は許されない……」


 険しい顔をして、戒めるように言う。

 対するラファエロはつまらなそうな表情で、


「え~? 恥とか教義とか、僕わかんな~い」


「……そういうところが、お父様があなたに暗殺を任せない理由……。あなたに暗殺の仕事は……まだ早過ぎる……」


「くふふ、どうかな? 早過ぎるかどうかは――結果を見てから言ってよ!」


 バッとドレスを脱ぎ捨てるラファエロ。

 そしてほぼ同時に、その華奢な身体が俺たちの視界から消えた。


「……! ダークネスアサシン丸!」


「カァー!」


 天井から会場を見下ろしていたダークネスアサシン丸が、ラファエロの行方を追う。

 するとすぐに、カラスの瞳はその姿を捉えた。


「流石ダークネスアサシン丸、目がいいね。でももう遅いよ」


 喪服のような黒いコート姿となったラファエロは、乱闘の中を潜り抜けエイプリルへと接近。


 そしてコートの下から、無骨なマチェットを抜き取る。


 それにいち早く気付いたレティシアは、


「! アルバン、私のことはいいからエイプリルを――!」


「ダメダメ、お兄さんたちはそこでじっとしてて」


 パチン、と指を鳴らすラファエロ。

 それに合わせて、


「がああああああああああッ!」


 いつの間にか操られていたローエンが、こちらに向かって襲い掛かってきた。


「おいおい……お前も操られてんのかよ」


 思わず「ハァ~」とため息を漏らす俺。

 なにしてんだコイツは、と。


 ローエンは体格が俺より大きいし、当然ながら筋力もそれなり以上にある。

 それに最近は鍛錬に精を出しているからか、入学当初よりずっと強くなってはいる。


 が、魔法で操られてゾンビ状態になってしまっては、それも形無しだ。


「少し寝てろ、このバカ」


 ローエンの拳をヒラリと回避した俺は――すかさず奴の顎に向け、容赦なくアッパーを繰り出した。


「ぐはぁ……!?」


 宙へ飛び、そのまま床へと倒れてノックダウンするローエン。


 少し強く殴り過ぎたかな?

 でもまあこれくらいやらないと気絶もしないだろうし。

 コイツのタフさだけは伊達じゃないから。


 そうしてローエンを退けたワケだが――操られた貴族たちは、まるでゾンビのようにとめどなく襲い掛かってくる。


 チッ、生かさず殺さずで気絶させなきゃいけないってのは、マジで面倒だな……。


 下手な攻撃魔法も使えないし、これはレティシアの傍から離れられそうにない。

 

 あのクソガキめ……それも全部わかった上で貴族たちを操ってるんだろうな。


 俺が内心で舌打ちしていると――いよいよラファエロがエイプリルへと肉薄した。



――――――――――

投稿が少々遅れてしまいました……!

申し訳ありません……!><


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何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m

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