第83話 なにがあった
《イヴァン・スコティッシュ
「なん――――だって――――?」
マティアスの放った一言に、僕は一瞬思考が止まる。
それはあまりに、あまりに予想だにしない言葉だったからだ。
「学園での手続き済ませたら、すぐに出てくつもりだ。来週にはFクラスともおさらばしてるだろうな」
「ま、待て! どうして……いや、どういうことだ!? 説明しろマティアス!」
僕は困惑し、らしくもなく狼狽してしまう。
だがそんな混乱した頭でも、たった一つだけすぐに理解できたことがあった。
マティアスに〝なにか〟があったのだ。
いや――正確には〝ウルフ侯爵家〟に。
でなければ、いきなり退学するなどと言い出すものか。
マティアスは理に聡い男。
今のFクラスが置かれた状況はよく理解しているはずだ。
ハッキリと言えば、Fクラスは――オードラン男爵夫妻が率いるクラスは、貴族の中では注目の的だ。
特に先日の中間試験でオードラン男爵がヨシュアを下し、ウィレーム公爵から〝公式なバロウ家の娘婿〟として認められた後は、これまでオードラン男爵批判派の者たちは相当数が擁護派へと鞍替えした。
認めざるを得なくなったのだ。
アルバン・オードラン、そしてレティシア・
あの夫婦を批難し続けていては、貴族社会の中で自らが不利になっていってしまうと。
まったく都合のいい話だが、世の中とはそんなものだろう。
僕自身、あまり人のことを言えばモノではないしな。
ともかくオードラン男爵夫妻が〝最低最悪〟だなどという評判は、既に過去の話。
今となっては、彼らの傍にいた方がメリットがある。
そうとわかった上で、あの二人を認めるなどプライドが許さないという傲慢な貴族たちもいるがな。
……例えば、僕の実家のように。
だがマティアス、キミは違うだろう。
そんな傲慢さは持ち合わせていない。
それに――キミだって思っているはずだ。
〝このクラスの一員でありたい〟と。
Fクラスの一員であることが、幸福なことであると――
この日々が堪らなく楽しいと――
そう感じているんじゃないのか?
それにウルフ侯爵家だって、これまでオードラン男爵夫妻に関しては擁護も批判もしない中立だったはずだ。
なのに、何故――!
「なにかあったんだろう!? 僕でよければ力になる! だから――!」
「……お前にゃ関係ねーよ」
突き放すような冷たい口調で言うと、マティアスは長椅子から立ち上がる。
「言いたいことは言ったからよ。時間取らせて悪かったな」
「待ちたまえ! 話はまだ終わってない!」
慌てて僕も立ち上がり、去って行こうとするマティアスの肩を掴む。
しかし、彼はこちらに振り返ることもなく――
「……なぁ相棒。なんでわかってくれねーんだ?」
「……!」
「俺は幸せそうにしてる夫婦の邪魔になんてなりたくねーし、
「マティアス……」
「お前にも理解できるだろ? だからさ、手ェ放してくれや」
――言い返す言葉が見つからず、僕は掴んでいた手を緩める。
マティアスは少し歩き、
「今日のことは胸の内にしまっとけ。それが――Fクラスのためなんだよ」
そう言い残し、僕の前から去って行った。
――――――――――
今回はちょっと短めです……申し訳ありません……!(;_;)
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