第80話 二人の出会い
「
エイプリルは俯き気味に、頬を赤らめたまま話し始めた。
▲ ▲ ▲
《エイプリル・スチュアート
――皆さん、こんにちは。
私の名前はエイプリル・スチュアート!
『マグダラ・ファミリア王立学園』に通う、ごく普通の十六歳の女の子です!
今日は友達と城下町で遊ぶ予定なのだけど、待ち合わせの時間に遅れ気味……。
だからちょっと小走りで急いでます!
「はぁ、はぁ……遅刻遅刻……!」
人込みを避けるように、街の中をタタタッと駆けていく私。
でも――とある曲がり角を曲がろうとした時でした。
ドンッ
「きゃあっ!?」
「――ってぇな。なんだぁテメェ?」
曲がり角の向こうから現れた男の人に、正面からぶつかってしまいます。
私がぶつかったのはとってもガラの悪そうな三人組の内の一人で、ギロリと私を睨みつけてきます。
「……おっと? 嬢ちゃん、王立学園の生徒様かぁ?」
「ヒヒヒ、如何にも金持ってそうだなぁ」
「それに顔もまあまあ可愛いじゃねぇかよ、えぇ?」
私の格好を見るなり、下卑た笑みを浮かべる三人組の男たち。
私はなんだか怖くなって、足が竦んでしまいます。
「あ、あの、ごめんなさ――」
「あーあー、痛ってぇなぁ~! ぶつかったお陰で骨折れちまったわ~!」
「こりゃあ治療費を払ってもらわねぇとなぁ、ヒヒヒ!」
「どうせ金なんて幾らでも持ってんだろ? ああ、持ち合わせがないってんなら身体で支払ってくれてもいいんだぜぇ?」
クックック、と三人組の男たちは笑いながら私を壁際に追い詰めます。
すると――
「……あぁ、畜生が」
私たちの近くに停めてあった、ホットドッグ屋の屋台。
そこで買ったばかりらしいホットドッグを一口齧った男性が、悪態を吐きながらこちらに向かってきます。
少しチャラそうな、褐色肌の男性が。
「おい、アンタら」
「ん? なんだお前、邪魔すんなら痛い目に――!」
「金が欲しいんだろ? なら――
チャラそうな男性はポケットから一枚の金貨を取り出すと、それを親指でピン!と弾きます。
「え――?」
金貨は空中でクルクルと回転。
それに気を取られたガラの悪い男は、すっかり無防備になり――
「どこ見てんだ、バーカ」
「――ぼげぇッ!?」
チャラい男性に、思いっっっきり殴り飛ばされてしまいます。
それは凄い力で、ガラの悪い男は空中で何回転もしながら遥か遠くまで飛んで行き、ドサリと地面に落下して気絶。
突然の出来事に仲間の二人は驚愕し、
「な、なんだぁテメェ!? いきなりなにしやが――ぐぎゃあッ!?」
今度は華麗な蹴りが宙を斬り、仲間の一人の頭部にクリーンヒット。
こちらも地面をバウンドしながら飛んで行って、簡単に失神させられてしまいます。
「な……!? こ、このガキャ――!」
最後に残った一人は懐に手を突っ込んで、なにかを取り出そうとします。
たぶん短いナイフでも隠していたのでしょう。
でも、
「おっと、妙なこと考えるなよ」
チャラそうな男性は目にも止まらない速さで間合いを詰め、懐に突っ込まれた腕をむんずと片手で掴みます。
「刃物でもありゃ、俺に勝てるとでも思ったか? 生憎、そんな半端な鍛え方はしてなくてね」
「い、痛だだだッ!」
ミシミシ、という骨の軋む音。
チャラそうな男性、凄い握力だ。
「……俺のクラスメイトには、嫁さんのためなら百人のゴロツキだろうがサイクロプスだろうが余裕で相手にしちまう怪物がいてな?」
ギリギリ、ミシミシ
掴まれたガラの悪い男の腕が、今にも折れてしまいそう。
「それに追い付くために、日がな猛特訓してっから――お前をぶちのめすなんてワケないんだよ」
「や、やめろ! やめてくれぇ! 俺たちが悪かったぁ! 折れる、折れるぅッ!」
涙目で懇願するガラの悪い男。
そんな姿を見て、チャラそうな男性は「ケッ」と舌打ちしつつ手を離した。
「二度と学園の生徒に舐めた真似すんじゃねーぞ。もし、次見かけたら……」
「は、はいいいぃぃぃ! すみませんでしたあああぁぁぁッ!」
脱兎の如く逃げていくガラの悪い男。
その場には、助けられた私と助けてくれたチャラそうな男性だけが残りました。
「……」
そんな光景を見ていた私は完全に放心状態になって、ポカーンと立ち尽くしてしまいます。
チャラそうな男性は私の方へ振り向いて、
「おいアンタ、怪我はねーか?」
「ふぇ――は、はい、大丈夫です……!」
「城下町はガラの悪い連中も多いし、気を付けるこった。じゃあな」
そう言い残すと、チャラそうな男性は「なんでホットドッグ食おうとすると毎度トラブルに巻き込まれるかねぇ……」とボヤキながら、私の元から去って行きました。
「――――」
この時、私の心は一瞬で奪われてしまいました。
なんて素敵なんだろう、って。
なんて格好いいんだろう、って。
私は、彼が落としていった一枚の金貨を拾い上げます。
いつか――いつか彼に相応しい女性となって、この金貨を返せるようになろう。
そしてその時は……想いを伝えるんだ。
そう胸に誓って――。
▲ ▲ ▲
「――えっ、なに今の回想……?」
突然始まったエイプリルの乙女すぎる回想に、俺は困惑を隠せない。
だが展開に置いてかれてるのはどうやら俺だけで、シャノアもレティシアも「うんうん……」と深々と共感していた。
「わかるわ、エイプリル……。それは惚れてしまうわね……」
「マ、マティアスさん、そんな格好いい一面があったんですね……。す、すっごく見直しちゃいました……!」
……そうか?
俺はレティシア以外助けようとなんて思わないから、よくわからんが。
――なんて口に出したらまたレティシアに怒られてしまいそうだから、黙る俺。
でもまあ、もし困っているのがレティシアなら俺だって光の速さで助けに入るしなぁ。
俺が助けたらレティシアも喜んでくれるし。
それに困っている女性を助けるのは、世間一般的に立派ではあるよな。
マティアスの奴にも見上げたところがあるってワケだ。
「そ、その出来事から、彼のことを色々と調べて……マティアス・ウルフ様ということがわかったんですけど……」
「今に至るまで、話しかける勇気が出せない――ということね」
コクリ、と頷くエイプリル。
「な、何度も自分なんかマティアス様に相応しくないって、諦めようとしたんですけれど……お二人の小説を読んでいて、どうしても憧れを捨てられなくって……!」
「エ、エイプリルさん! なにを仰いますか!」
再び、シャノアがガシッとエイプリルの手を握る。
「そんなに想っているなら、あ、諦めちゃダメです! 私もエイプリルさんの力になりますから……!」
「シャノアさん……!」
「――そうね、聞いてしまったからには無関係ではいられないわ」
レティシアは不敵な笑みを浮かべたままティーカップを持ち上げ、紅茶を口に含む。
その所作は何度見ても優雅で綺麗だ。
「私にも協力させて頂戴な。まずは、マティアスに少し
――――――――――
レティシア、動きます|ω·)و ̑̑༉
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何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m
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