第75話 娘を頼んだぞ
「オードラン男爵……!」
ウィレーム公爵は俺の顔を見て、〝
まさか俺が救助に現れるなんて、思ってもみなかったんだろうな。
「ウィレーム公爵……いや、義父さんと呼ぶべきですかね? 申し訳ないですけど、ご挨拶はこの後ゆっくり――」
「ッ――!」
こちらの台詞を遮って、〝
相変わらず奇怪な戦い方をするよなぁ、コイツは。
「人様のご挨拶を遮るとは、いい度胸だな」
俺は苦も無く剣でトランプを弾き、〝
剣とトランプとの鍔迫り合いに持ち込む。
「言っとくが、逃げられるなんて思うなよ? 今日こそお前をとっ捕まえて、これまでの恨みを晴らさせてもらう」
「ク、ククク……! 本当の本当にしつこいお方だ……!」
〝
そんなに俺が怖いか?
そんなに俺が恐ろしいか?
あぁ、ならよかったよ。
怖くない
俺は剣を握る手にさらに力を込め、〝
どうやら単純な力比べじゃ、俺の方が上らしい。
〝
「あなたといいレティシア嬢といい……どうしてとっとと破滅してくれないのでしょうねぇ……!」
「破滅? そりゃあ無理な話だな」
ピシッ、と奴のトランプにヒビが入る。
「俺がいる限り、絶対にレティシアは不幸になんてならない。そしてレティシアがいる限り、俺は誰にも負けない」
「グ……ゥ……ッ!」
「……よくも今までレティシアを付け狙ってくれたな。今日こそ――殺す」
そう言うや、俺は剣を全力で振り抜いた。
真っ二つに斬り裂かれた後、粉々に砕け散る一枚のトランプ。
同時に〝
「ぐ――ああああああぁぁぁッッッ!!!」
「……これは、ゴロツキ共にレティシアを誘拐させた分」
冷たく言い放ち、剣を構え直す俺。
〝
で、当然コイツをそこへ通す気なんて俺にはサラサラないワケで。
要は逃げ場なんてないってことだ。
だから、〝
俺と戦って惨めに死ぬか――
逃げようと足掻いて惨めに死ぬか――
そのどちらかだ。
「ハァ、ハァ……! クソッ……!」
傷口を押さえながら新しいトランプを取り出す〝
よかった、どうやらまだ遊んでくれるらしいな。
「……これは、ライモンドを使ってレティシアを〝呪装具〟の餌食にしようとした分」
「ぎゃあぁッ!」
二、三度ほど剣とトランプを斬り交えた俺は、今度はトランプを持つ奴の右腕へと刃を滑らせる。
悪知恵に頭を働かせるのは奴の方が得意だろうが、直接剣で斬り合うことに関しては俺の方がずっと上だ。
故に――俺は蹂躙する。
「そして……これが、レティシアの親父さんを攫った分だ」
最後、俺は〝
――真っ二つに割れる、道化師の仮面。
僅かに飛沫する真っ赤な血。
シルクハットも地面へと落ち――ようやく〝
「こ……の……! よくも……っ!」
「へえ、思ったより色男なんだな」
〝
金色の髪に金色の瞳、肌も色白で、顔つきは優男風。
なんだろ――なんとなく、レオニールに少し似ているだろうか?
あっちと比べるとだいぶ目つきは悪いが。
それに仮面を斬った拍子に顔面を斜めに切るような大きな傷ができて、色男が台無しになっている。
まあ、もう顔なんて関係ないだろうが。
どうせ、ここでコイツは死ぬんだから。
「……終わりだ、〝
床に片膝を突く〝
そして剣を握る手に力を込め首を刎ねようとした、まさにその瞬間――
「待ちたまえ!」
ウィレーム公爵の声が、俺を止めた。
「え……ウィレーム公爵……?」
「殺してはならん。その者には、伝言を頼む必要がある」
「伝言……?」
「……オードラン男爵よ、すまないがこの拘束を解いてもらえるか?」
え? このタイミングで?
いやまあ、レティシアの親父さんの頼みとなれば聞くけどさ……。
渋々と俺は〝
そしてロープを斬って彼を自由にすると、
「さて……王女の飼い犬よ、貴様には言伝を任せよう」
椅子から立ち上がり、〝
「帰って彼女に伝えろ。私は今日から、アルバン・オードラン男爵の擁護派へと回る――とな」
「……フッ、今更手の平を返すのですなぁ。あれだけヨシュアを気にかけておいて」
「ああ、私が間違っていた。オードラン男爵は〝最低最悪の男爵〟などではない」
ハッキリとした口調で言うウィレーム公爵。
彼は〝
「私の
「…………その言葉、後悔しますぞ」
「後悔など、ずっと昔からし続けているとも。我が愛娘を、マウロなどという愚か者に嫁がせた時からな……」
どこか遠い目をして言ったウィレーム公爵は「さあ行け」と僅かに首を動かす。
それを見た〝
「……あの、ウィレーム公爵――」
「そういうことだ。娘を頼んだぞ、婿殿」
――――――――――
たぶん次話辺りで第4章も完結になると思います(*´ω`*)
初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)
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何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m
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