第63話 エステル凶騒曲


《エステル・アップルバリ視点Side


「「オラアアアアアッッッ!!!」」


 ゴシャアッ!

 という爽快な音を立てて、お互いのお顔にクロスカウンターがおヒットしますわ。


 いいですわねぇ。

 やっぱり〝お喧嘩〟はこうでなくちゃいけませんことよ。


「な、中々い~い〝剛拳ゲンコ〟じゃねぇーかよォ……! とても〝レディ〟たぁ思えねェ!」


「あら……あなたの〝剛拳おパンチ〟も悪くなくってよ……! 〝る気〟があって素敵……!」


 おミシミシと頬骨が軋む音が脳みそに響き渡ります。

 もしダンジョンに魔法陣が張られていなければ、顎が砕けていたかもしれませんわね。


 私の骨って、相当頑丈なはずなのですけれど。


 貧乏商家の娘だった頃は、お喧嘩中に背後から頭を金槌ハンマーでガツン!とやられても、逆に金槌ハンマーの方が砕けたくらいですし。


 あの頃は〝血気盛んヤンチャ〟してましたわー。

 懐かしいですわねー。


 ……今日は久しぶりに、あの頃・・・の気持ちに戻らないといけないかしら。


 この殿方、〝お喧嘩慣れ〟していやがるみたいですから――。


 私と彼はバッと間合いを離して、


「そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたわね。伺ってもよろしくて?」


「〝おう〟! 俺ぁキャロル・パルインス! 人呼んで〝鏖殺みなごろしのキャロル〟ってなぁ俺のことダ! 〝夜露死苦よろしく〟!」


「まあ、素敵な異名をお持ちなのね! 私の名前はエステル・アップルバリ! どうぞ〝喧嘩殺法ステゴロお嬢様〟とでもお呼びになって!」


 私がお優雅に自己紹介をすると、キャロルはとっても驚いた顔をします。


「……! アップルバリだと!? そうか、手前テメェが〝アップルバリ&パワー商会〟の社長令嬢かァ!」


「あら? 私の会社をご存知ですのね」


「ったりめぇヨ! 悪徳豪商に〝脅迫ユス〟られた貧乏商家の小娘が、二十人以上のチンピラを引き連れた豪商を全員まとめてぶちのめして、挙句にゃ豪商の会社も財産も全部〝強奪ぶんどった〟ってよォ……。〝荒くれ者ツッパリ〟の中じゃ、今でも伝説として語り継がれてるゼ!」


 まあまあ、私ってばそんな〝伝説レジェンド〟になっているんですのね!

 なんだか照れちゃいますわー!


 でも〝強奪ぶんどった〟だなんて失礼しちゃう。

 私はただお喧嘩に勝って、正当な報酬を頂いただけですもの。


 もし負けたらこっちの財産が取られていたんですから。

 大変だったんですのよ?


「エステル・アップルバリ……俺ぁアンタに〝敬意リスペクト〟を表すル! 〝荒くれ道ツッパリ・ウェイ〟に生きる一人としてヨ!」


「嬉しいことを言ってくれますわね。でも、私は〝荒くれ者ツッパリ〟ではなくて〝お嬢様〟なのですけれど?」


「いーや、アンタは〝荒くれ者ツッパリ〟だ! 俺の熱い〝ココロ〟がそう認めてんだヨ! だからこそ――〝敬意本気リスペクト・オブ・マジ〟で行かせてもらうゼ!」


 キャロルはグッとリーゼントを整えると、全身の筋肉に〝魔力おパワー〟を込めます。


「――〔特攻凶騒曲・純情一番星ブッコミラプソディ・シャイニングスター〕ッ!!!」


 ――次の瞬間、彼は全身の筋肉という筋肉がバキバキのムキムキに肥大化。


 オークやホブゴブリンなんて裸足で逃げ出してしまいそうなほどの、ゴリマッチョメンに変貌を遂げます。

 

「ふぅん、〝肉体強化〟の魔法かしら」


「〝おう〟! コイツが俺の使える唯一にして最強の魔法! 全力全開のフルパワーだ!」


「はち切れんばかりの〝筋肉〟……いいですわね、ウットリきますわ。でも――」


「あン?」


「――紛い物・・・の筋肉が〝乙女の覚悟〟より強いと思ったら、大間違いなんだわ」


 タンッ、と地面を蹴飛ばした私は――キャロルの懐へと瞬時に〝移動おワープ〟。

 ギチギチッと右手の拳を握り締め、


「チェストおおおおおおおうううぅッ!!!」


「ごぉ――あああああああああああッッッ!?」


 彼のどてっぱらに、思い切り〝殴打おパンチ〟をお見舞いして差し上げます。


 メキャメキャ!ゴキボキ!という鈍くて重い打撃音と共に吹っ飛んでいくキャロル。

 とっても痛そう。


 でもご安心なさって。

 このダンジョンには魔法陣がありますから、幾ら殴ってもおっんだりはしませんの!


「おわかりになって? これが〝乙女の覚悟〟の重さ……そして純然たる気合と根性のみで鍛え上げた〝本物の怪力おパワー〟ってヤツですわ」


 忘れもしませんわ……。

 まだ貧乏商家の娘だった、あのつらく苦しい日々……。


 お金がないせいで人も雇えず、身体が不自由なお父様は力仕事なんて無理。


 それでもお店を盛り上げようと私は、一人で十人分の重肉体労働を毎日こなしておりました。


 何十キロ、何百キロもある大樽を担いで、お店と倉庫を行ったり来たり。


 とっても大変だったけれど、私には〝夢〟があったんですの。


 いつか本物のお嬢様になるって――。


 そんな淑女の淡い夢を胸に、ただひたすらに努力を続けた結果――私の〝筋肉〟は至高の領域にまで鍛え抜かれてしまいました。


 以前、パウラ先生にも言われたことがありますわ。


『エステルさんの肉体は異常ですね! 〝肉体強化〟の魔法では、どんなに強大な魔力があってもこんな怪力は出せませんよ!』


『どうやら純粋な筋トレ――鍛錬だけで、あなたの〝筋肉〟は魔法を超越してしまったようです!』


 ああ、努力と根性だけで〝筋肉〟が魔法を超えてしまうなんて……。

 私ってば、なんて罪な女……!


 でも――だからこそ断言できますわ。

 私は、紛い物・・・なんかに負けたりしないって。


「へ……へへ……! 今のは中々、〝強烈タフ〟な一撃だったぜェ……!」


 お腹を大きく陥没させながらお立ちになるキャロル。

 あなたも大概に根性キマッてますわね。


 よろしくてよ!

 あの頃・・・の気持ちに戻ってきましたわ!


 お店やお父様を守るために、地上げやチンピラと〝喧嘩ツブしあい〟に明け暮れた〝青春〟の日々に!


「あら、今のなんてほんのご挨拶。ここからが〝本番マジ〟でしょう?」


「〝上等〟だァ! 〝鏖殺みなごろしのキャロル〟の〝特攻出発デッパツ〟、とくと見やがれェ!」



「「行くぞオラアアアアアアッッッ!!!」」



――――――――――

※この作品はファンタジー小説です。

 誓ってヤンキー小説ではありません(´·×·`)


初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)


☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。

何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m

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