第3話

 顔を隠すのには、理由がある。

 おそわれたくないから。

 単純明快に、こわかった。

 人ではないもの、というか、なんというか。そういうものが、顔を出していると寄ってくる。こわい。


 ぐちゃぐちゃした人ではない何かにおそわれそうになったときは、どうしようもなくて、立ち尽くすだけだった。そんなとき、彼が来てくれて。わたしをロッカーに閉じ込めて、その人ではない何かを殺してくれた。わたしは、ただ何もできず声を噛み殺していただけなのに。彼は、何も言わず助けてくれた。


 彼のことが好きになった。助けてくれたから、というのもある。いつも助けてくれている。でも、そういう、お礼みたいな好きじゃない。なんか、こう。消えてしまいそうな、儚さを、彼から感じることがあった。それが好きだった。その儚さを消し去ってみたい。ここに。わたしのところに、とどめてみたい。彼を。

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