第2話

 不思議な女だった。たまたま間違えた単語をそのまま使ってリオーネと呼んだら、気に入ったらしく、それ以降の呼び名はリオーネになった。


 完全に隠れ蓑だった。任務がある。ばかみたいに走り回って日常を謳歌しているやつらに紛れて、ここに出ている何か危険な人ではないものと対峙しなければならない。そんな自分にとって、リオーネの存在はちょうどよかった。


 世話を押しつけられた形になる。常にリオーネとペアになり、リオーネが分からないところを教えたり、読めないところを読んだり。屋上に連れていったりもする。


 周りから見れば、さぞあわれな2人組に見えるだろう。それでいい。表向きがどう見えようと、任務のためならどうでもよかった。


 それに、リオーネはかなり器量がよかった。

 いちど、人ではないものを殺す関係でリオーネをロッカーに閉じ込めたことがある。ぐちゃぐちゃしたやつだったので、殺すのに時間がかかり、ついでにロッカーの近くで感情の断末魔まであげていた。声ではない、感情の断末魔。慣れたものだったが、リオーネにとってはおそろしいものだっただろうに。ロッカーを開けたら、声を出さないように自分の腕を噛んでふるえていた。


 絶妙な共生関係だった。リオーネを利用して、自由な時間を作り出して任務を行う。そのかわりに、リオーネの日常をサポートする。わるくはなかった。リオーネがいい女だったというのも、ある。いい女なのは間違いない。


 なぜ、顔を隠すのだろうか。器量がよくて、いい女。顔を出して、にこにこしていれば、だいたいのことが許されるだろうに。よりによって顔を隠し、世話されるがままになっていた。

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