24. 新婚生活(仮)

24. 新婚生活(仮)




 アパートに戻り、まだ夕飯までは時間があるので聖菜さんは部屋の掃除を始める。


「オレも手伝おうか」


「じゃあお風呂掃除してほしいかな」


「了解」


 オレは浴室へ向かう。すると脱衣所には聖菜さんの洗濯物らしきものがある。下着もあるので見てはいけないと思いつつ、男としては見過ごせないのでチラッと見てしまう。


「白とか黒とか色々あるんだな。聖菜さんが黒とか……少しエロいかも。」


「赤もあるよ」


「……さて。お風呂掃除しようかな」


「これは現行犯ですな」


「聖菜さん。男はみんな女性の下着が好きなんだよ。学校で習わなかった?」


「私の学校では習わなかったかな」


 聖菜さんはクスクスと笑う。オレも苦笑いを浮かべる。少し残念な気持ちを抑えながらそのまま見なかったことにして、浴槽や壁などを丁寧に洗っていく。


「よし。こんなもんだろう」


 綺麗になり、次はスポンジを手に取り床を磨いていく。ある程度ピカピカになると、ふと考えてしまう。


「なんか……新婚生活みたいじゃないか?」


 いかんいかん。と首を振り、雑念を消す。聖菜さんとはまだ付き合ってすらいないのだ。変な想像をするんじゃないぞ。と自分に言い聞かせる。


 その後、リビングに戻ると聖菜さんはソファーに座りテレビを見ていた。オレが近づくと気付いたようで、こちらに振り向く。


「終わったかな?」


「うん。これでいつでも入れるよ」


「ありがとう優斗君。それじゃ夕飯作ろうかな。」


「手伝おうか?」


「ううん大丈夫。ゆっくりしてて」


 そう言って聖菜さんはエプロンを身につける。オレは言われた通りにゆっくりと座って待つことにする。


「さてさて。メニューはいかがいたしますか旦那様」


「シェフのおすすめで」


「おすすめはオムライスと野菜スープとなってます」


「じゃあそれで」


 聖菜さんは微笑みながらキッチンに向かう。一緒に買い物をしたから大体想像はついたけど。オレのためにオムライスを作ってくれようとしてるんだよな。


 ……やっぱりこれは新婚生活みたいじゃないか?キッチンから聞こえる包丁の音、フライパンで炒め物をする音、換気扇から漂う料理の良い匂い。なんだこれ。幸せすぎるんだが。


 しばらくすると、聖菜さんはテーブルに出来上がったものを置いてくれる。


「はいどうぞ召し上がれ」


「いただきます」


 スプーンですくった黄色い物体を口に運ぶ。卵がフワッとしており、ケチャップの酸味が程よく効いている。とても美味しい。食べながら横目で見ると、聖菜さんはニコニコしながらオレの食べる姿を眺めていた。


「どうですかな旦那様?」


「最高。さすが三ツ星シェフだな」


「それはどうも」


「ちなみに隠し味は?」


「隠し味は……月並みだけど愛かな」


「こんなに美味しい料理なら毎日食べたいくらいだ」


「将来毎日食べれるよ」


「餌付けされてるんだなオレ」


 冗談を言い合い、お互い笑い合う。こんな時間がずっと続けばいいのに。そんなことを思いながら、幸せなひと時を過ごした。聖菜さんが作ったオムライスを食べ終え、二人で食器の片づけをしている時だった。急に玄関のチャイムが鳴る。


 ピンポーン。


 誰だ?こんな時間に。


 聖菜さんは洗い物の手を一旦止め、インターホンに出る。宅配便かな?


「はい。どちらさまでしょうか?」


『オレ。開けて』


 オレ?え?男?まさか!聖菜さんに男!?聖菜さんを見ると、焦っているような表情をしていた。


「優斗君。ごめんね。ちょっと待ってて」


 聖菜さんは急いで手を拭き、小走りで玄関へ向かう。そしてドアを開ける音が聞こえた。オレは玄関まで行き、外の様子を伺う。


「よう聖菜」


「どうしてここに?」


「今日バイト休みになったから来た」


「そうなんだ……」


 会話を聞いている限り、相手は男のようだ。それに聖菜さんもあまり嬉しそうではない。というか困惑しているように見える。あんな顔の聖菜さんを見たことがない。


 ……聖菜さんが誰と付き合おうとオレが何かを言える立場でもない。だがここで何もしないでいいのかオレは?もう自分でも気づいているはずだろ!オレは大きく深呼吸をして、右手を強く握りしめる。そしてそのまま玄関に飛び出していった。

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