22. 簡単に人を信じちゃいけないのだよ

22. 簡単に人を信じちゃいけないのだよ




 世間はGW真っ只中。オレは連絡先を聞いたあのあとから聖菜さんとは毎日メッセージのやり取りをしている。と言っても他愛のない会話がほとんどだけど。


 今日は午前中から聖菜さんと会う約束をしていた。なんでも頼みたいことがあるらしい。待ち合わせの駅まで急いで向かう。


「あっ聖菜さん。ゴメン待った?」


「おはよう優斗君。ううん。私も今来たところだから」


「それで頼みたいことって?」


「えっと……あー実は家具を組み立ててほしいんだよね。私さ。工作とか苦手で。」


「ということはもしかしなくても聖菜さんの家に行くのか」


「そうなるね」


「ほう。優秀な捜査官を用意しておかないと」


「見たくないものも見ちゃうかもだよ?泣かない?」


「男の子だから大丈夫」


 なになに?もしかして他の男の物とかあるのか?だとしたら……いやいや、そんなわけないか。だって聖菜さんの顔がからかってる顔してるし。


 オレ達は電車に乗り聖菜さんの自宅へ向かう。聖菜さんは一人暮らしをしていて、最寄りの駅から10分ほど歩いたところにあるアパートに住んでいるらしい。


「ねぇ優斗君」


「なんだ」


「どうせ明日も暇だよね?」


「だからどうせが余計なんだが」


「今日私の家に泊まっていく?」


 泊まる。その言葉を聞いて身体中が熱くなるのを感じる。しかしいつもこうやって聖菜さんにはからかわれてばかりだ。たまには困らせてやるのも面白い。全部肯定したら聖菜さんも少しはおとなしくなるだろう。


「そうしようかな。力仕事してから帰るの面倒だし」


「本当に?最近優斗君と一緒にいれなかったから嬉しいかも。」


 聖菜さんは少し顔を赤らめてすごく嬉しそうにしている。いや……可愛すぎるからやめて欲しい。


「じゃあ怜奈ちゃんに連絡しないと」


「え?あっああ。そっそうだな……」


 オレはあとには引けず、そのまま怜奈にメッセージを送る。するとすぐに『明日はお赤飯にするから、絶対シてきて。絶対だよ?』とふざけたメッセージが返ってきた。あとでボコすのは確定っと。


「あっでも着替えがないよな」


「優斗君の着替えなら買ってあるよ」


「用意がいいね」


「こうなった時のためにね。一応未来の奥様だから」


「それ本当にオレの?他の男のじゃなくて?」


「それはご想像にお任せしようかな」


 そんなことを話ながら歩いていると聖菜さんのアパートにたどり着く。


 聖菜さんの部屋に案内されるとそこは綺麗に整頓され、女の子の部屋という感じだ。聖菜さんの匂いがする。


「そこに座って待っていて。お茶出すね」


「ああ。ありがとう」


 リビングにはソファーとテーブルがある。そこでしばらく待っていると聖菜さんがお茶を持ってきてくれた。


「はい。どうぞ」


「ありがとう。それで組み立てる物は?」


「……どこだろうね」


「え?」


 聖菜さんはニコニコしながらオレを見ている。まさか……


「あの……」


「簡単に人を信じちゃいけないのだよ優斗君。これは教訓だから」


「いやそもそも聖菜さんの頼みだから来たんだけど。他の人なら行かないし」


「本当かなぁ?」


「オレの未来の奥様はメンヘラだからさ」


「誰のことかな?」


「もちろんオレの『運命的な何か』の人」


 オレがそう言うと聖菜さんはクスッと笑い、オレの隣に座る。


「……怒らないんだね」


「なんで怒るの」


「もしかして私に会いたかったのかな?」


「それは聖菜さんじゃないの」


「……それはご想像にお任せしようかな」


「オレの未来の奥様は素直じゃないらしい」


 直接的には言ってくれないけど、聖菜さんにも可愛らしいところがあるようだ。こんないつものやり取りもすごく幸せに感じてしまう。


 今なら分かる。未来の奥様だからじゃなく、オレは今の聖菜さんの事が好きなのかもしれない。

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