謎の多い電動キックボードを発見し、そこからエクストリームレースにエントリーする話

アーカーシャチャンネル

これは現実か、それともフィクションなのか?

 つい最近、といっても4月の話にはなるが、自転車にヘルメットの着用が努力義務となったらしい。


 3月の末日ごろには、多くのお店でヘルメットが品薄であるというニュースも報道されていた。


 それを踏まえると、今回の電動キックボードも……と思うが、この辺りの事情に首を突っ込む気はない。


「電動キックボードか…」


 自室のテレビでニュースを見ていた男性は、ふと思う個所があった。


 ヘルメットを着用したとしても、それだけで安全が確保できるのかといわれると……疑問が残る箇所もある。


 飲酒運転やスマホを見ながら運転は禁止されるのは当たり前だ。このほかにも様々なルールが存在するといってもいい。



 数分後、彼はパソコンでワードの検索をしている際に、ある記事を目撃する。


【格安キックボード、ネットで出回る?】


 記事のタイトルを見ても、半信半疑といえるだろうか。値段としては10万円台の高級モデルも存在するが、5万円台もそこそこという感じだ。


 この記事の内容を見ると、その値段は1万円という事でかなりの破格といえるだろう。更に言えば、中古ではなく新品で1万円だ。


「新品で1万円のキックボード? どこかのフェイスニュースを扱うサイトじゃあるまいし」


 彼は記事を黙読しつつ、どう考えても1万円の電動キックボードはありえない、何かの間違いではないか、とも考え始める。


 値段的に実は海外製の日本では使用できない部類の物ではないか、電動とは名ばかりのキックボードではないのか……と言うのもゼロとは言えないレベルで、1万円の値段設定は破格だった。


 文章を読み進めると、1万円という価格には理由があったことが判明する。運転可能エリアが埼玉県に限定されていた箇所だ。


 レンタル扱いなのか……とも思うが、レンタルとはどこにも記述がない。文字通りの購入タイプなのは間違いないだろう。


 送料……というか、この場合は陸送費が発生するとのことだが、県内の専門店で受け取りを行えば発生せずにすぐ運転することも可能らしい。


 更に読み進めると、ナンバープレートもサービスで登録を行い、そのほかの書類登録なども含めての追加費用負担はゼロ、そういった費用が発生しない点では破格の安さといえるだろう。


 それでも1万円の電動キックボードは目を疑うだろう。埼玉県限定という部分を差し引いたとしても、そう思える。


「これは、まさか?」


 その彼が気になった一文、それを見て疑問に思う個所はあった。


 キックボード本体以外にも付属するものがあるという記述なのだが、その付属品に驚くしかなかったのである。


「パワードスーツ? 電動キックボードにパワードスーツが付くのか?」


 文章とともに画像が添付されており、キックボードとは別にインナースーツにアーマーが装着されたようなパワードスーツが付属するのだ。


 メットも込みのスーツ一式、メットに関しては、バイクのメットを思わせるようなものというよりも、明らかに特撮物のデザインに見えなくもない。


 このスーツ一式は明らかにSFで見かけるようなものであり、初見では何かのアニメや特撮作品のコスプレと思われるのは間違いないだろう。


 何も事情を知らない人がこれを見たら、電動キックボードに乗るためにはパワードスーツも義務になるのか、と思う人もいるのは否定できない。


 その疑問は、最後の一文を見て解消することとなった。


「登録してみるか」


 そして、気が付いた時には登録作業が終わっていたのである。1万円は専門店でなくてもコンビニ支払いが可能なので、登録後に受け取った番号をコンビニに渡し、1万円を支払うことに。


 電動キックボードの受け取りは数日後、登録自体は即日に行われるが、審査で数日かかるとのことだ。


 審査落ちをしたら1万円は返金はされる。再審査に数週間はかかる一方で、迷惑系配信者だった場合にはブラックリスト入りで登録不能という補足事項もあった。


 バーチャル配信者でも登録はできるとのことだが、どういうことなのだろう? 自分もバーチャル配信者ではあるのだが……。



 数日後、彼は草加市のレース場に足を運んでいたのである。


 審査には合格し、レース場へ電動キックボードと一式を取りに来てほしいと電子メールで詳細が届いたのもあったが、その指定場所に驚いた。


 草加市の、自宅から自転車で数分のような場所に、このようなレース場があるとは予想外だったのもあるだろう。



「まさか、このようなことになるとは思わなかった」


 1万円の電動キックボード、その正体はエクストリームレース用のキックボードだった。デザインも安全基準を満たしたものであり、更に言えば……という個所もある。


 パワードスーツのようなアーマーは、ある意味でも必須といっていいだろうか。事故防止という意味で、あそこまで装備を必要としていたのは映像を見て思った。


 レースフィールドを走るのは8人のパワードスーツを装着したライダー、全員が何かしらの配信者というのが共通している。


 個人勢、企業勢も関係なく、己の勝利のために走り続けているといっていいだろうか。


「これが、エクストリームレース……?」


 レース映像を見て転倒するライダーの姿を見て、痛そうには思う反面、すぐに立ち上がってレースを続行している光景には別の意味で驚きを隠せない。


 コース自体は障害物があるわけではないので、カーブで曲がり切れずに転倒というパターンが多いだろう。


 転倒はしなくても、ルールによっては武器の使用も可能なため、そういったダメージから身を守るために用意されたもの、ともいえる。


「このエクストリームレースは、動画配信者の間でも異色の人気を誇る。収益を得るという個所でも、このレースに参加しようという人物は後を絶たないのさ」


 すでにメット以外はパワードスーツを装着した別の男性が、自分に話しかけてきた。彼も、どうやら配信者らしい。


 彼の場合は個人勢なのだが、収益という点では何とかしなければいけない個所もあったので、エントリーしたという事だった。


 企業勢の中には会社の知名度を上げるために登録したという配信者もいるが、その辺りは人それぞれか。


「なんなら、このレースに登録するために県内へ引っ越した地方の配信者もいる。バーチャル配信者でも、メットの仕組み的に顔は隠れるから、正体バレの心配もない」


 その後、話しかけてきた彼は何かのアラーム音を確認してか、メットを被る。その形状は、自分も知っているバーチャル配信者のイラストがプリントされたものだった。


「レースといってもギャンブルというわけではない。転倒したとしてもすぐに復帰できれば失格ではないから、落ち着いていこうな」


 埼玉県は公営競技を全て揃っているといってもいいような場所であり、川口市には特殊な形状のバイクがコースを走る競技が存在していた。



『まもなく、エクストリームレース、第5レースが始まります』


 ウグイス嬢のようなアナウンスが聞こえるが、このウグイス嬢も実はバーチャル配信者の一人である。


 このエクストリームレースの正体、それは配信者たちのイベントとしての意味合いが大きかったのだ。


「自分が走るのは第7レース、もうすぐか」


 電動キックボードのメンテナンスはレーススタッフ側が行い、細部チェックはAIによっても行われ、事故がないように徹底している。


 しかし、これだけのレースを行い、電動キックボードの普及などに影響しないのか、というのはあった。


 さすがに他のエリアでも電動キックボードに乗るにはパワードスーツ必須、となったら大変かもしれないし、値段も高価になる可能性だってゼロではない。


 一方で、こうしたエクストリームスポーツが非公式に行われたら……という可能性もゼロではないだろう。



 彼の戦いはこれから始まる。


 電動キックボードを使ったエクストリームスポーツを広めるための……小説を彼が書く為にも。

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