第28話 創作漢字
創作漢字
好き勝手に漢字を作り出してはいけないことになっている。
一人であれこれ遊ぶのは構わない。が、複数名でそれを楽しむのも禁止されている。もしそんなことが許されたなら、悪口から国家転覆に至るまで、あらゆる蛮行犯行が容易となってしまう。
しかし既成の漢字だけで足りないのも、また事実だ。日々言葉は作り出される。使われなくなり廃棄される文字と、新たに生み出される文字。職人界隈にとっても、「あれをどうしてこれをそうしたもの、ただしそれとは違うやつ」といちいち説明をやるより、「金偏に赤」と一文字で示した方が、お互い楽に作業が出来るわけだ。
カンカン、カンケン、でんでら商会。
そこが国の語を管理している。擬音語を並べたわけではない。こういった俗称は世につれ組織の役割の変遷につれ、変わるものだが、私としては一番古いでんでら商会を愛用している。それでなくとも慌ただしい動乱のさなか、国が追いつく前に商工会議所が動き、それが漢字研究管理部つまりカンカンとなり、昨今の漢字国字管理編纂庁つまりカンケンとなった。
日本にそぐわぬ白亜の建物に、えんどう豆のいろをした西洋風の屋根を乗っけて、今も若干デザイン変更をしつつ引き継がれているでんでん虫の初期の紋章を、正面のレリーフに見ることが出来る。今やピクトグラムのような薄っぺらいマークになってしまったこのシンボルも、でんでら商会の当時は実際のカタツムリに近いフォルムをしており、その渦巻きの殻は肉厚に描かれている。二本の角にょきにょきと、国民の平等と国の発展を今も願ってやまない。
私がオギャアと生まれたときには、すっかりでんでら商会ではなく、カンケンですらなく、カンカンだったのだが、その歴史を知るたびに、いったい何故自分はもっと早く生まれてこなかったのだろうと、悔しい思いをするのである。
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