第21話 瑕

 絵を描くためのカンバスはカンバスであるだけで美しいというのに、そこにベタベタと油だのパテだのを塗りたくるのが許せない。

 白く美しい、布のカンバス。

 それでもやはり、絵を描くためのものであるからカンバスは汚される。色とりどりによって。身勝手に汚されたカンバスはもはやカンバスではなく絵画だ。あまりそれを美しいとは思えない。

 無垢であることを、きっと私は崇拝している。

 ところが最近、木彫りの仏像を見て考えが変わった。仏像には二種類の作り方がある。寄せ木のように組み立てて作るものと、一本の材木を細かく彫っていく方法と。私は後者の技法によって作られた仏像に、何故だかいたく感動した。今まで他の仏像を見ても、なんとも思わなかったのに。

 一本の材木を、傷だらけにして、身勝手に彫り進めて、それなのに私を感動させる。

 傷だらけは美しい。

 そんなことを思った。

 もちろんその仏像は粗く彫られただけでなく、しっかりと磨かれて滑らかな表面をしていたのだけれど、それでも傷だと私は感じたのだ。人間も、傷だらけのほうが美しいのかもしれない。他人から見れば。

 この世に、傷一つない人間などいないのだから。

 私は私のことが大嫌いだけれど、誰かから見たら、あの仏像のように、たとえば、もしかしたら、私のことを美しいと言ってくれる人もいるのだろうか。

 そんなことを思いながら、私は今日もカンバスを作る。私はカンバス職人だ。誰かが絵を描くためのカンバスを、これからも作り続ける。

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