本当の友達
ユダカソ
本当の友達
「先生、ココロさんを保健室に連れて行きます。」
私がそう声をかけると、授業を中断された先生は「ああ」とだけ言って、再び歴史の流れを熱く語り始めた。
周りも心配する様子も無く、こちらを見ない。
むしろ行くなら早く行けと苛立ちさえ感じられる。
「友田さんもいつも大変だよね。」
「あんな子の世話係に任命されちゃってさ……」
余計なお世話のヒソヒソ声に、先生は「静かに」と語気を強めに注意した。
先生は陰口のことより自分の話を聞いてもらえないことが面白く無いようだった。
そんなクラスのじめじめした雰囲気にも、私はもう慣れきっていた。
ココロさんはどうだか知らないが。
窓辺に座る陰気な少女。
前髪で目元は隠れ、髪も手入れしてなさそうにバサバサに伸ばされ、晴れていても彼女の周りは暗く感じる。
それがココロさんだ。
ココロさんは1千万人に1人罹るかどうかわからないという難病、というか特殊能力を持ち、人の心が読める体質なのだ。
そんな体質のせいか、体調を崩すのはしょっちゅうだ。
ちなみに「奥寺 心」という彼女の名は「心が読めるから」ではなく「周りの心がわかる優しい子に育ってほしい」という思いが込められているそうだ。
そんな話、誰から聞いたかはもう忘れたが、周りの心なんてちっともわかってない行動しかしてないように思う。
私はその隣の席だった、というだけで世話係となったことも含めて。
「いつもごめんね、友田さん」
教室から出るとココロさんは小さくつぶやいた。
「大丈夫。気にしないで。」
謝るくらいなら具合悪くしないでよ。
私はココロさんを支えながら保健室へ向かった。
保健室へ着くと、ココロさんはベッドに寝かされた。
貧血気味でもあるようで、固形の栄養剤を与えられていた。
「全く、ちょっとしたことで挫けちゃだめじゃない」
私の時代はもっとね……と、ふっくらした腕を腰に当て語る保健の先生に、ココロさんは「ごめんなさい」と力なく答えただけだった。
先生はベッドから戻ると、私に向き直り「いつもご苦労様」と同情の目を向けた。
「あんな子の世話してて疲れるでしょ」
親指でココロさんのいる方を指す。
その言葉は小さい声というわけでもなく、ココロさんに聞こえていてもおかしくない距離で話されていた。
「いえ、あの」
私だって人のことを言えるわけでは無いのだが……
「ココロさんのいる前でそんな話は、ココロさんが聞いたらどう思うか……」
「いいのよ」先生は手をひらひらと振った。
「言わなくてもどうせ聴こえてんのよ。今更隠したってしょうがないじゃない。」
「そんな……」
言葉に詰まったが、確かにそうだ。
最初から聴こえているなら口に出しても出さなくても同じだ。
私だって心の中でよく悪態をつく。
聴こえてると知っていて、わざと……。
そうでもしないと、世話係なんてやっていられない。
それでも何か言い返そうとも思ったが、いい文句が思い浮かばず私は黙っていた。
彼女を援護する義理も何も無かった。
「それでは、私は授業に戻ります。」
「勉強、遅れないようにね。」
先生の言葉を尻目に、私は保健室を出て教室に戻った。
そうだ、あの子に付き合っていては授業についていけなくなる。
あの子を思いやる余裕なんてこちらにはない。
それに私は、あの子のことを好きというわけでもないのだ。
カラカラ……と小さな音を立てて後ろから教室に入ると、一斉に目がこちらを向き、また一斉にノートや教科書、黒板に向き直った。
その視線の動きの不気味さにも慣れた私は、すごすごと自分の席に戻った。
自分の書きかけのノートと黒板の文字を照らし合わせる。
保健室へ行き教室へ戻ったのはたった数分の出来事だから、そんなに授業は進んでいない、ハズだ。
教室の前の丸い時計の針に目を見やる。
いや、本当に聞き逃しは無いのか、実はテストに関わる大切な部分が私のいない間に語られていて、取り返しのつかない事になってるのじゃないのか。
時計の針の動きと連動するように、小さな不安が静かに募っていく。
「ねえ、さっきの授業さ、聞き逃しあるかもしれないから、ちょっと教えてくれない?」
手を合わせてお願いすれば「いいよー」と友達は優しく教えてくれる。
ありがたく友達のノートを確認してみたら大して大事な話はされていなかったようだ。
よかった。
安堵と同時に、心の海が小さくさざめく。
どうして私がこんなことでいちいち不安にならなきゃいけないの。
しかも自分のせいじゃなく……、
「友田さん、いつもあの子のせいで授業中断されて、嫌じゃない?」
「え……」
友達に急にそう聞かれて、私はすぐに答えることができなかった。
「ほんとアイツ調子乗ってるよな、友田さんのことも考えないで」
「そうそう、この前なんて……」
私が返答を考える間もなく、友達はココロさんのの悪口で盛り上がった。
私はただそれを聞いていた。
ココロさんのことは好きではないし確かにいろいろと不満はあるのだが、悪口を言ってはいけないという親の教えを大切にしていたのだ。
でも、ココロさんの悪口を聞くのは悪い気がしなかった。
というより、悪口ではないと感じていた。
これは全て事実で、私の潰された気持ちを友達は代弁してくれている。
そう感じていた。
私は友達のココロさんへの悪態や中傷に同意もしなかったが、決して否定はしなかった。
「でも、友田さんは、どうしてココロさんの世話係を続けてるの?」
唐突に友達にそう聞かれ、答えに窮してしまった。
「やめた方がいいんじゃない?」
怪訝そうに私の顔を見やる友達。
「そう……だけど……」
両の手の指を絡めて目を泳がせてしまう。
確かに好きでもないココロさんの世話を続けるというのもおかしな話だが、私にはやめると言い切れるほどのストレスは溜まっていなかった。
かと言って続けたい情熱も友情も感じていない。
とどのつまり、やめてもやめなくてもどちらでもよかった。
やめたほうがいい気もするが、他に誰がこの子の世話するのか検討もつかないし……。
ココロさんの世話を続けられるのは私くらいのもののような気もしていた。
「友田さんは優しいから……」
友達はそうフォローしてくれたが、そうではない。
単に怠惰なだけだ。
やめもせず、続けるにもやる気はなく、どっちつかずでダラダラしているだけの……。
そんな自分は好きでは無いが、変えるべきかもわからない。
わからないまま、こうして卒業までダラダラ日常が続いていくのかもしれない。
朧気にそう予感していた。
ダラダラと、ココロさんに付き合わせられながら……。
「ココロさんは早退することになったそうだ、よろしく」
次の授業で、歴史の先生が全体にそう報告した。
「言っちゃ悪いが」と前置きをして、「今日は話を遮られることなく授業が進められそうです!」
先生は少し嬉しそうに拳に力を入れた。
教室に小さく笑いが走る。
私も「先生がそんなこと言っていいのか」という気持ちと「先生も何か思うところがあったんだな」という気持ちで「ふ、」と軽く口角が上がった。
みんながココロさんに授業の邪魔をされている。
みんながココロさんがいなくなればと感じている。
誰も先生のことを責められないだろう。
その後は、ココロさんがいてもいなくてもつまらない授業が滞りなく進み、授業が終わった。
ココロさんがいなくなれば、何かが変わるかとほんの少し期待していた私もみんなも、単に授業が中断されないだけで大して変わらないことが実に退屈だった。
あの子がいようといまいとほとんど変わらないのだ。
世話をやめるかどうかの決心もつかないわけだ。
つまらない帰りの挨拶も済み、ダラダラと放課後になり学校を出る。
果たして世話係を続けるか、この際きっぱりとやめるか、どうしようか、なー………
ぼーっと考えていたら家に着いた。
食事を済ませ、ダラダラとテレビを観て、面倒ながら風呂に入り、布団に入りダラダラと漫画を読み、眠りにつく。
目覚めたらまたダラダラとした日常が始まり、私はダラダラとココロさんの世話をするんだろう……。
そんな日々がダラダラと続いていくんだろう……。
虚空を見つめていた瞳を閉じ、私はダラダラと夢の中に溶けていった。
夢に溶けながら、私はふと沸いた疑問をまたダラダラと追っていた。
そういえば、ココロさんは心が読めるなら私が彼女をどう思っているかもお見通しのはずだ。
なのにどうして彼女は私の世話を受け続けているのだろう。
普通なら、嫌がるとか、怒るとか、悲しむとか、何らかの反応があってもおかしくはない。
それでも私がいくら心の中でココロさんに悪態を吐こうと、彼女は特に反応を示さない。
まるで心の声なんて聞こえていないようだ。
本当に心の声が聞こえているのだろうか。
聞こえているなら、何故無反応なのだ。
気味が悪い。
本当は聞こえていないんじゃないのか。
具合が悪そうなのも、そういう振りをしているだけで、本当はただのサボり癖のある陰気な女の子なんじゃないのか………。
彼女は本当は、一体何者なんだろう…………。
「……………あ」
そうか。
考えているうちに私は納得のいく答えに辿り着いた。
ココロさんは、人間じゃないんだ。
人間じゃないから、周りもまともに扱わないし、だからよく壊れるし、ココロさんもそれで平気でいられるんだ。
だって、そうじゃなかったらココロさんも周りも平気でいられるはずがない。
ココロさんが人間なら、先生や友達も彼女を大切に扱わなくちゃならないし、ココロさんもそのような扱いに怒ったり悲しんだり、何かしらの感情が露わになるはずだ。
誰もそうしないのは、ココロさんが人間じゃないからに決まっている。
それならココロさんが無反応なことにも納得がいく。
そちらの方がココロさんを理解できる。
そちらの方がココロさんと長くつきあっていられる。
私は人間じゃないココロさんのほうが可愛いと思えた。
本当は眠くて彼女のことを考えるのが面倒になったので、自分で勝手に適当な設定をつけただけなのだが。
自分でつけた設定のほうが、面白いのに。
こんな設定を思いつくのも夢と考え事が混じっていたせいかもしれない。
明日、全て私の思い通りになるといい。
翌朝。
学校に着くと、教室の中から何やら楽しそうな声が漏れている……。
早めに来た友達がココロさんの机に何やらラクガキをしているようだった。
それもおそらく、歓迎の意味では無い言葉を書いているようだった。
教室の外の廊下からそっとその様子を見ていても、かりかりとシャープペンシルの芯が机を傷つける音が聞こえてくるようだ。
気づかれないようにしてその様子を暫く眺めていた私は、それを…………止めもしないで、何となくトイレへ行って時間を潰して、教室へ戻り何事も無かったように入り口を開けた。
おはようと声を掛け合う。
友達は読書をしたり、荷物を整理したりと平然としていた。
私もなるべく机のラクガキにまるで気づいていないように振る舞いながら……ラクガキの方に目をやった。
そこにはとても差別的な……軽く口に出しては当事者を深く傷つけるだろうと想像される酷い言葉が書かれていた。
流石の私も「うわ」と思った。
思っただけだ。
かわいそうとは思うが、庇う気も起きない。
友達も、単に酷い言葉を書いただけ。
それだけだ。
普段授業を中断させ周りに迷惑をかけるココロさんに比べたら被害者はココロさんただ一人、とても小さな事に思えた。
それにココロさんは人間じゃないし……。
昨日の夢に未だに思考を引っ張られ気味の私には さして重大なことに思えず、ラクガキのことは気にしないでバッグから教科書やノートを取り出し、机に納めた。
そうしている間に1人また1人と教室に人が入ってきた。
誰もココロさんの机のラクガキに気づかない。
みんなどうだっていいのだ、彼女の机がどうなろうと。
人間じゃないココロさんの机がどうなろうと知ったことでは無いのだ。
そしてそのうちにココロさんもやってきた。
友達はチラチラとお互い顔を見合わせているようだった。
私も少し緊張していた。
何か大きな反応するだろうか、それとも無反応だろうか?
ココロさんは人間じゃないから何もわからないんじゃないのか、それともだからこそ過剰に大騒ぎするのだろうか。
ココロさんの反応に期待が膨らむ。
しかし、これはただのラクガキなのだ。
ただのラクガキ……。
見つけたら消せばいいだけの、ただのラクガキ。
ただのラクガキ……。
ただの……。
……でも……………。
ココロさんは自分の席の前まで来て、ラクガキに気づくと、固まっていた。
大声で喚くこともせず、ただじっとラクガキを見ていた。
泣くだろうか、と見ていても、何も起きない。
しばらくじっとしていたココロさんはバッグを机に置き、筆箱を取り出すと、さっさとラクガキを消し始めた。
消し方も憎しみや怒りが込められているようには見えず、ただ必要な分だけ力を出し消しているようだった。
つまらない反応。
そんなあっけなくラクガキを消しては、仕掛けた意味が無いじゃないか。
もっと泣くとか怒るとかしたらいいでしょう。
せっかくのイジメなのに。
ラクガキを書いた張本人というわけでもないのに、勝手に残念がった。
イジメなんてそんなものだ。
やったって意味は無い。
面白いことも何も起きない。
ましてココロさんは人間ではないのだから、面白い反応ができるわけなかったのだ。
ココロさんに何かを期待したのはこれが初めてだったのに。
残念な結果でおわってしまった。
面白いことが起きて何か変わるんじゃないかと思ったけど、何も起きずこうしてまたダラダラと変わり映えしない日常が続くのかと思うとため息が出た。
私はこのつまらない結果が、とても空虚に感じた。
その日のココロさんは一度も保健室に行かなかった。
ココロさんの保健室に行く頻度は週に2・3回くらいだから、珍しいことでもない。
私はあのラクガキがあったのに、強いじゃん、くらいに思っていた。
いや、ただのラクガキなんだし、ココロさんは人間ではないのだから傷つかなくたって不思議ではない。
別に強くはない。
普通だ。
ココロさんが強い存在であることは私にとって面白いことではなかった。
まして人間のように傷つくとか耐えるとか乗り越えるとか、今更そんなことがココロさんにあって欲しく無かった。
しかし変化が起きたのは次の日だった。
朝からココロさんはいつもより具合が悪そうだった。
いや、いつもどんな顔をしているかなんて見てないので具合が悪いかどうかはわからないのだが、なんというか、陰気度が増していた、ように感じた。
流石に昨日のラクガキがこたえたのだろうか。
とも思ったが、ココロさんは人間じゃないはずなのに、なぜ、という思いが上回った。
やはり具合が悪かったのか、ココロさんは一時限めの途中から息が荒くなり、それは次第に大きくなっていった。
2時限めからは机に突っ伏したままになり、変化に気づいた数学の先生がココロさんにようやく声を掛け、保健室へ連れていくこととなった。
その際に先生に「友田!」と声をかけられ、驚いた。
ココロさんの様子は私に関係のある事に思えなかったからだ。
先生は一体なぜ私に声をかけたのだろう。全く検討がつかない。
「世話係だろう、何も気づかなかったのか」
「えっ?」
先生が何を言っているのか、本当にわからなかった。
私は確かにココロさんの世話係を続けていた。
でも好きでやってるわけじゃないし、義務だとも思ってない。
命じられれば保健室にも連れて行く。
だが、彼女の体調管理まで任される謂れは無い。
それに、ココロさんは人間じゃないんだから、気にかける方がおかしいくらいなのに。
なんで私が注意されているの。
なんで私、先生にこんなこと言われてるの。
なんで私、ココロさんの世話係をやっているの…………。
「いいから早く保健室に連れて行け」
「…………」
返事もしたくなくて、私は黙って彼女の身体を支えた。
不服ではあったが、彼女を保健室に連れて行くために教室を出た。
重い荷物を抱えて教室を出て暫く、長い廊下の真ん中でこの重いものは静かに声を殺して泣いていた。
涙が床に点々と落ちる。
私は「何故こいつは泣いているんだ?」と思って慰めもしなかった。
ラクガキのせいかという気もしたが、私にはどうでもいいことだったので早く泣き止まないかと思っていた。
人間じゃないくせに、人間のように目から涙のようなものを流すココロさん。
彼女に水道の蛇口でもついていたら、私は今すぐそれをきゅっと回すのに。
「……どうしたの?」
絶え間なく流れる涙を見ているうちにココロさんが人間でないことを忘れ、私は何となく声を掛けた。
それに、沈黙が続くのも少し変な気がしたので。
「あ…………あ…………」
ココロさんはズ、と鼻を鳴らしながら何かを喋ろうとしていたが、なかなか続かない。
その滑稽な姿に、壊れて音声の一部しか鳴らすことのできなくなった音の出る玩具のようだ、と感じた。
やっぱりココロさんは人間じゃないんだな、それを思い出し始めていた。
しばらくしてやっとココロさんの言葉が繋がった。
「ありがとう」
壊れた玩具が間違えた音を出した。
壊れ過ぎて登録されてない音声を流し始めたのだ。
そんなふうに感じて、私はココロさんを支える腕を離し、ココロさんを自立させた。
「……………え?」
ココロさんは涙を制服の袖で拭いながら2本の足で立っていた。
壊れた玩具は人間のように見える。
私はココロさんが玩具なのか人間なのかを確認するかのように、彼女に向き合う形でココロさんの様子を伺っていた。
ココロさんは玩具と人間の間のような重く滑らかな動きでおもむろに口を開いた。
「わたし、人の心の声が聞こえるから、いつも、疲れてて、いつも、ともださんに、いろんなこと、てつだってもらって……」
ココロさんはひとしきり話すと涙を拭うのをやめた。
その動きも設計されているように見える。
私はそれを人間の動きだと思いたくなかった。
「でも、心の声が聞こえるのはいつものことだから、平気なの。もう慣れたから、気にならない。気にならないように頑張ったの。」
ココロさんは私をまっすぐに見つめる。
そんな彼女の顔を見ていたくない私は、顔はココロさんの方を向いていても、なるべく目を合わせないようにしていた。
「だからわたし、心の声じゃなくて、口から出た言葉をその人の本当の声だって思うようにしたの。その人の本当の心は口から言葉にして出てくるんだって、そう思うようにしたの。」
何が言いたいのだ、見えてこない。
見たくない。
人間じゃない奴の言葉など、聞きたくない。
人間じゃないくせに、喋らないでくれ!
「それでも、わたしのことを心の中だけじゃなく、声に出して悪く言う人はたくさんいた。わざとなのか、わざとじゃないのか、知らないけど、心の中じゃなく、外に出して、口に出して、」
それは文字として記される時もあった、とココロさんは語った。
親にもいつも「お前はダメだ」とか「もっとしっかりしろ」と言われ続けていたらしい。
人間じゃないココロさんは人間のように喋り続ける。
「でもね」
ココロさんの表情が少し明るくなる。
何故か嫌な予感がする。
「あなただけなの。」
ココロさんの目が柔らかく細まる。
日本のからくり人形のようだ。
「あなただけは私を悪く言わないでいてくれた。口に出さないでいてくれたの。」
ココロさんの紡ぐ言葉に、私の心の中に嫌な液体がポタポタと落ち、溜まって瓶を満たしていく心地がした。
「少なくとも外側ではあなたは良い人なの。内側ではわからないけど。でもね、内側ってふつう、他の人には見えないでしょ。だから無いのと同じ事なの。私もそう思ってるの。聞こえるけど、無いと思ってるの。だから、」
ドロドロとした気味の悪い液体が溜まり、水位を上げてせりあがってくる。
「嬉しくて、わたし、涙出ちゃって、」
これ以上、液体を注ぐな。
「私はあなたを、本当の友達だと思っているの。」
いつもありがとう。と微笑む彼女に、瓶から出た液体が口を通って全て流れ出る思いがした。
私はその日ココロさんの世話係をやめた。
本当の友達 ユダカソ @morudero
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます