八色運動会⑷

木天蓼愛希

第1話泥羽

     天気のいい朝


 この日は学校が休みなのだ。とびっきりの田植え日和だった。当然、家族は田植えの格好をして、田んぼに集められて居た。


「林新葉(小学二年生)は昨年もやったからか覚えていると思うけど、株を数本剥がし取って植えるんだぞ」


 林早葉(小学六年生)がいつもの様に教える。


「うん。覚えてるよ」


 言って、新葉は稲を植え付けて行く。家族もどんどん植えて行く。

 二つの田んぼが終わったところで昼食にした。いつもの事だが、おにぎり。沢庵。玉子焼き。ウインナー。しゅうまいが入って居るお弁当とお茶が毎年の恒例の昼食だった。


「出たあ。お前。また玉子焼きから食うの。良く飽きねえよなぁ」


 と、早葉が揶揄う様に構った。


「玉子焼きはねー。お弁当の王様なのよ。どの食材より、一番入ってるのが玉子焼きだもん。一番愛されているお弁当の定番食品なんだからね」


 ふんっと首を横に振り、音葉が言った。


「そりゃあ、音葉の言う通りだな。早葉。一本取られたぞ」


 大地が口を出した。無言の早葉に水葉がケラケラ笑って居た。


「このおにぎりの様に今年も美味しいお米作りたいね」


 新葉は言って口に頬張った。


「ごっくん。ごっくん」


 お茶を飲む水葉。水葉の髪の毛を遊ばせる風が吹いて居た。爽やかなそよ風が稲を通り抜けて音色を奏でる様だったその先には鯉のぼりが風に乗って流れていた。すっかり、春から夏に時を移そうと足掻く空がそこに居た。


 田んぼの緑と空の青がくっきりとはっきりと映し出して居た。お茶を飲んでいる一行。椿が片付け始める。


「さあ。そろそろ始めるぞ。やって仕舞えば終わりじゃ。やるぞうみんなあ」


 と、岩爺の掛け声で皆んなは動き出した。


「うわぁ。何度入ってもこの感触だけは好きになれないわ。わぁ爪の中にも泥が入った。気持ち悪い」


 水葉が文句を言って居る。


「お姉ちゃん。美味しいお米を作るんだよ」


 と、言って音葉は稲を植えようと歩いた。


「ビチャッ」


 と、泥が跳ねる音。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る