第2話この上に乗るんだ。早葉の葛藤。

「この濁流じゃあ、泳いだって、呑み込まれるぞ」


  早葉は言って、決断を拒む。


「 早葉。ボードだ。ボードは板とスチールで出来ているから浮くだろう。それで行こう。皆んなで乗って引いた時に波に乗れば一気に廊下側に出られるだろう」


 山田大翔は提案する。けれど、 早葉はそう出来ずにいた。建物の設計上窓やドアからは濁流がどんどん入って来る。引く時に外に出られるとしても濁流の中、外に流されるのは余りにも危険過ぎる。濁流の水位が問題だ。ドアを泥水で塞がれたら、逃げ場が無い。それどころか、水位が天井まで上がって来たら、全員終わる。今、これに乗っていけばあるいは本館の通路になって居る廊下を抜ければ、先生や生徒達に合流する事が可能だ。選択次第だ。逆に水位が上がらなければ、危険を冒してまで移動する必要はない。それに水に浸せば卒業制作はダメになる。海斗に見せなければならないボードがダメになってしまう。早葉にとって直ぐに決められる選択では無い。


「水に濡らしたら、元も子もないんだ。折角ここまで来たのにオレは何も出来無いのか。それしか方法が無いのか」


 早葉は苦しんでいる。顔を強張らせ、頭を抱え込んでいる。


「海斗君の事を考えて。こう言う時、海斗君ならどうするのかを考えて見て。海斗君なら、こう言う時は必ず人を助ける事を選ぶわ。しっかりして。海斗君なら分かってくれる筈よ。でしょ。ねぇ、 早葉」


 結愛は懸命だった。懸命に皆んなの命を救う事だけを考えていた。


(海斗なら。海斗なら躊躇なくボードを使おう。早く先生の所へ行こうと言う筈、こんな所で水埋めなんて怖いよ。早く先生の所に行こうよ。 早葉君。そう言うんだろうな。海斗なら)


「海斗ごめん。行くぞー」


  早葉はボードを水面に浮かせ、


「さあ、この上に乗るんだ。しっかり掴まっていろよ」


  早葉達(加藤悠真・宮内結愛。高橋陽菜・林新葉・藤島渚)は最初にボードに乗った。続いて次のボードに山田大翔達(伊藤颯太・伊藤大和・加瀬凌太・加瀬広平・石毛大地)が乗った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る