八色運動会⑸

木天蓼愛希

第1話学校崩壊。学校内に泥水があらゆる所から入って来る。

 学校ではそれぞれの教室で生徒達は待機して居た。そして、この状況にいち早く気付いたのが一年生の一宮虎之介いちみやとらのすけだった。

 窓際に一番近くに座っていた虎之介が窓の向こうを見て居ると、異変に気付いた。


「何だあれ、泥水だ。泥水がこっちに向かってやって来るぞ」


 虎之介が言うと、一年の全員が窓を見る。


「何。何あれ」


 井上梓沙が悲鳴の様な声を出した。


「早く。先生に知らせなきゃ」


 梓沙の声。一年生は皆んなパニックになり、てんでんバラバラにその場所から離れた。二年生の教室にもその声が届き、二年生の生徒達も窓を見た。徐々に校庭に流れ込んで迫って来る泥水に二年生もまた、パニック状態に陥って居た。


「泥水よ!どんどん入って来る。ここに居ても大丈夫なのかなぁ」


 渚は恐怖で混乱して居た。子供達はそれぞれ兄弟や姉妹の所へ走った。林新葉はやししんば(二年生)は藤島渚ふじしまなぎさ(二年生)を落ち着かせると、


「六年生の教室に行こう」


 新葉は言って、渚の手を引いて二階にある六年生の教室に向かった。


 その頃、五・六年生の教室でも窓から見た光景を見て、今どんな状況に置かれている事をみんな知って居た。ある者は怯えてしゃがみ。ある者は兄弟の所へ。ある者は先生を呼びに。ある者は外へ飛び出し、ある者は屋上に向かい。ある者は友達にしがみ付いた。


 その頃、職員室でも、先生方は異変に気付いていた。それぞれの先生方は生徒のいる教室に向かった。


「きゃー。泥水が校庭内にどんどん入って来る」


 女の子達の声。男の子達からも大声が飛び交う。生徒達は何処へ向かえば良いのか分からず、パニックになって居た。騒然とする教室。悲鳴を上げ、泣く子供達。落ち着かせようとする先生。辺りはもはや、収拾がつか無いまでになって居た。

 そんな中、早葉は階段を降りて行った。


「早葉。待て、何処に行く」


 生徒会長であり、親友であり、ライバルでもある渚の兄の藤島悠人ふじしまゆうと(六年生)が呼び止める。


「………………!」


 無言のまま階段を駆け降りる新葉の兄である林早葉はやしそうは(六年生)。

 悠人も早葉の後を追う。


「お前、講堂(体育館)に行くんだな。待て俺も行く」


 悠人が早葉の後を追って走る。


「馬鹿。悠人お前は戻れ。生徒会長」


 早葉は言って、寄せ付け無い。


「馬鹿はどっちだ。二枚を取りに行くつもりだろう。一人で持てる訳ねーだろうがー。生徒会長は俺じゃない。もう。山口蓮やまぐちれん(五年生)だ」


 蓮人はあくまでも早葉の後を追おうとする。早葉は強張った顔で後ろを振り向き、


「蓮。一人にさせんじゃねー。お前が着いててやらねーでどうする。蓮一人に押し付けてんじゃねーぞこの野郎」


 言って怒鳴った。悠人の足が止まった。もう、それ以上早葉の後を追う事はしなかった。代わりと言うわけでも無いが早葉の後を山田大翔やまだひろと(六年生)。加藤悠真かとうゆうま(六年生)。宮内結愛みやうちゆな(六年生)が追った。


「結愛待って。私も行く」

(もう。早葉の事になると未栄無いんだから…………)


 言いながら、結愛の親友である高橋陽菜たかはしひな(六年生)は結愛の後を追う。早葉は構わず、講堂に向かった。必死の形相で駆け抜けて行く。その後を四人が追う。新葉は早葉が走って行ったのを見た。


「お兄ちゃん」


 言って、新葉もまた、早葉達の後を追った。何も分からない渚もまた、新葉の後を追った。石毛大地いしげだいち岩瀬海咲いわせみさき渡辺駈わたなべかける達。同級生も新葉の後を追った。


 上に避難しなければならない筈の状況で階段を降りようとしている受け持つ生徒を放っておく筈もなく担任の石森啓介いしもりけいすけは駈と海咲を捉えた。


「お前達。行くな‼︎ 下は危険なんだぞ。行っちゃあダメだ」


 石森啓介先生が怒鳴った。


「講堂(体育館)に着いた 早葉。講堂の建物の高い位置にある上から見学出来るスペースのある場所に上がって行った。二つの卒業制作板(ボード)を確認し運び出そうと考えているのだ。後を追って来た新葉に気付いた 早葉。


「何でお前がここに居るんだ」


 きつい口調で気持ちをぶつける。


「お兄ちゃんの後を追っ掛けて来たんだ。ボードを運びに来たんでしょう。僕も手伝うよ」


 新葉は手伝おうとする。


「ふざけるな。誰が頼んだ。その上、二年生の同級生まで引き連れて何かあったら、どうするんだよ」


  早葉は新葉に怒鳴った。


「あのねー。新葉君は悪く無いの。私達が勝手に着いて来ちゃっただけなの」


 渚が言って庇う。


「ここは危ないんだぞ。分かっているのか」


  早葉は窘める。


「危ないのはお兄ちゃんだって一緒だよ。手伝った方が早く逃げられるでしょう」


 新葉。一人では運び出す事が難しいのも事実で誰かが手伝ってくれると助かる話ではある。来てしまった物を追い返す程 早葉にも余裕も時間も無い 早葉は手伝って貰う事を選択した。


「新葉。その黒いカーテンを両端に引っ張って開くんだ」


  早葉は言って、新葉に頼んだ。


「うん。分かったお兄ちゃん」


 新葉は嬉しそうに言われた事をした。


「カッターかハサミが必要だ。どっかに切る物は無いか?」


  早葉。


「制作の時に使った物があるわ。持って来るね」


 結愛はあった所に走る。


「そう、こっちに引き寄せて」


  早葉は言って、台に乗り、持ち上げる様にした。結愛が持って来た刃物(ハサミ・カッターなど)でカーテンを切った。それを板で作ったボードに巻き付けた。

  早葉は来てくれた皆んなに頼んでそれを一緒に運んで貰う。下までそれを運んで来ると、外から、伊藤颯太いとうそうた(六年生)。伊藤大和いとうやまと(五年生)。加瀬凌太かせりょうた(三年生)。加瀬広平かせこうへい(二年生)が講堂に飛び込んで来た。


「助けて。誰か居る」


 走って来たのだ。直後に泥水がドドッと流れ込んできた。足元に泥水が流れて上履きを汚して行く。足の指から足の裏に掛けて生温かい感触の悪い泥水が入って来る。靴下がビチャビチャになり、足が重くなって歩きづらくなって居た。子供達は後ろに退く。


「上がれ‼︎」


「上に上がるんだ」


  早葉は言って、上に上がり出す。 早葉はボードを置いた。泥水はどんどん増して行く。


「 早葉どうするの。あなたはいつだってそうよ。後先考えず行動するの。皆んなを危険な目に合わせて。無茶するの。六年生の後を追って行くのは当然よ。 早葉ー」


 結愛が困惑してせき立て責める。


「ああ。分かってるよ。そんな事。オレにどうしろってんだよ。あいつと約束したんだ。海斗は観たいって言ってたんだ。なのにオレが二度も邪魔したんだ。あんなに観たがって居たのにいつでもチャンスはあると思っていたんだ。こんな事になって、オレがこれ守らなかったら、誰が守るんだよ。何が何でもこれ守って観せてやらなきゃいけない。それがオレの役目だ」


 言って、 早葉は言い返した。


「早ちゃんのせいじゃ無いよ。あの時は早く帰って貰うしか無かったじゃない。もっと、病気が酷くなら無いで済んだんだよ」


 結愛は気持ちを打つける。


「………………………‼︎」


  早葉は無言だった。


「何とかしなきゃ。助かる方法を考え無いと」


 結愛は続けて言った。


「そんな事分かってんだよ。だから、今考えているだろうが、」


「…………………‼︎」


 今度は結愛が無言となった。


「カーテンを細く長く切ってくれ。そしたら、それを結ぶんだ」


  早葉は言うと、


「うん。分かった」


 皆んなは返事をして早速取り掛かった。カーテンが一本の紐となった。思いのほか長い紐状になったのだ。


「一人ずつ縛って行くぞ。皆んながバラバラになら無い様にするんだ」


 言って、 早葉は二組の紐を作らせてそれを皆んなに縛らせた。それぞれ縛った物を確認した。


「ドドドゥ……………………。ゴォォォォォォォォ…………………」


 大きな音と共に激流な泥水は一気に流れ込んで来た。入り口を塞ぐ様に入って来たのだ。


「皆んなしっかり紐に掴まってろ。濁流に呑み込まれるな」


  早葉は皆んなに声を掛ける。


「 早葉。どうするの。もう直ぐドアの上まで水が来るわよ。今、逃げ無いと、ドアより水位が上がって、完全に閉じ込められちゃうわよ」


 結愛は言って、 早葉に選択を迫る。

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