幸せは徐に

そうざ

Happiness comes Slowly

 何がぁ~~起きたのかぁ~~正確にぃ~~説明ぇ~~出来るぅ~~人はぁ~~居な~~いぃ~。


 ※まどろっこしいので便宜上、普通に書く努力をする(作者)。


 そもそも最初に異変に気付いたのは誰だったのか、それさえも定かではない。

 異変というものは、影響を受けた者と影響を受けていない者とが同時に存在していなければ観察が出来ない。同じスピードで走行する二つの列車にそれぞれ乗車した二人が車窓を介して見詰め合っていると、自分達が移動していないような錯覚に陥るのと同じ理屈だ。


 やがて一人、また一人と何かがおかしいと気付き始めた。

 やけに日が延びたような気が――?

 夜が中々明けないのは何故だ――?

 労働基準法は守られているか――?

 コース料理がいつまでも続く――?

 幾ら擦っても気持ち良くない――?

 思考の体感時間は今迄通りなのに、物理的な時間の流れ方が遅くなっている事が判った。そんな馬鹿なと思っても、実際に世の中の時計という時計が同じようにゆっくり進んでいるし、人工物も自然物も森羅万象がスローモーションで動いているのだから仕方がない。

 世界中の物理学者がゆっくりと口を揃えて唱えた。もしかしたらこの宇宙全体の時間が一斉に速度を緩めているのかも知れない、そしてこの先どうなるのかは全く解らない、らしい。

 3日後に迫っていた結婚式は。中止にならなかっただけまだ増しだけれど、次に彼女に会えるのは式の当日。のだ。


 交際期間1年を経て遂にゴールイン。今時、婚前交渉もなしに結婚だなんてと周囲には揶揄からかわれたけれど、万事おっとりとした性格の似た者同士には、このマイペースならぬアワペースが心地好いのだ。

 僕達は、挙式の当日その夜に晴れて結ばれようと前々から決めていた。成り行き任せではなく、計画的に枕を共にするのだ。

 正直に言えば、僕は貞操観念からこの計画を立案した訳ではなかった。禁欲に禁欲を重ねて膨張させた血眼の肉欲が、垂涎のまにまに今か今かと解放の時を待ち侘びているこの魅惑的な日々。最早、耳元で初夜という単語を囁かれただけでも興奮の暴発を禁じ得ない。

 時間の流れは遅くなっただけで止まった訳ではないのだ。必ず彼女と結ばれる瞬間がやって来るのだ。

 嗚呼、時よ早く過ぎるが良いっ――!


 彼女はこの長い3日間に揺らぎはしないだろうか。心変わりをしないだろうか。やっぱり結婚なんか止める、と言い出さないだろうか。

 遠距離恋愛くらいへっちゃらだと思っている僕達だけれど、こんな想定外の事態が起きると流石に不安になる。

 気を紛らわそうと、心の中で1、2、3と数えながら時計の秒針の動きと比べてみた。

 カチッ――と秒針が動いた時、24まで数えられた。本来の1秒が24倍にも引き延ばされている事になる。

 3日間は72時間だから、秒に換算すると――25万9,200秒だけれど、24倍遅れるので――高々三日が過ぎるまでに622万800秒も掛かる。これは1,728時間だから、日数に換算すると――72日!

 思考のスピートは相変わらずだけれど、現実がゆっくりになった分、余計にもどかしく、れったく、辛抱堪らない。

 楽しみは後に取っておく方が良いと言う人も居るけれど、正直に言えば、僕は大好物を真っ先に食べたい派なのだ。

 そんな僕が涼しい顔を取り繕いながら三年間も我慢して来たのだ。

 嗚呼、彼女に会いたいっ、そしてっ――!

 こうしているぅ、間にもぉ、どぉんどぉん〜、時の流れがぁ〜あぁ〜ゆっ〜〜〜くぅ〜〜うぅ〜〜りぃぃいぃ〜〜。


 ※更にまどろっこしくなりそうなので、再び普通に書く努力をする(作者)。


 ピィー、ピィー、ピィー。

 タイマーが鳴った。やっと3分が経った。が、僕の実感では72分も掛かった事になる。

 兎に角、今やれる事を粛々とこなし、を待ち望むしかない。今やれる事と言えば、麺が伸び切る前に完食する事だろう。

 ズルッ、ズルズルッ……やっぱラーメンは……醤油味だな……ズルッ、ズルズルゥ〜……ズルゥ〜〜ズゥ〜〜〜ルゥ〜〜ウゥ〜〜~。


 ※これぇ以ぃ上はぁ〜〜もぅお〜〜無理ぃいぃ~~……(作ぅ〜〜者ぁ〜あ〜ぅ〜〜ぁ〜っ)。

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