第90話 暴走9

さて、神月。儂らはそろそろ引き上げるか?」


「おいっ、じいさん。何、ボケたこと言ってんだよ!まだ、やることがあるだろうが?」


「はて?何かあったかのう?」


「はぁ~。これだから金持ちは………。」


「師匠。私はわかっすよ!」


「遙!あなたは分かるの?」


「当然っすよ!師匠は元は普通の一般人っすよ。朔夜達金持ちにはわからないことがあるっす!そういう私もどちらかと言えば裕福な家庭になるんすけどね!」


「あっ、もしかして、モンスターのドロップ品の買い取り?」


「そうっす!ですよね師匠!」


「遙。正解だ!」


「あれっ?でも、私達が倒したモンスターのドロップ品は何処に言ったっすか?」


「ああ、それなら」


「大丈夫なの!グラムが回収したの!」


へっえん、と胸はなくて体を張るグラムである。


「えっーと、グラムさんがっすか?」


「そうなの!………、集合なの!」


グラムの目の前にグラムの分裂体が整列する。


「それぞれ、行っていいの!」


「「「「「「「「了解なの!」」」」」」」」


すると、俺と哮天犬、グラム、スノウ、ウル、玄羅、朔夜、遙の前にグラムの分裂体が1人ずつ陣取る。


「師匠!これはどういうことっすか?」


「ああ、何かグラムが俺達が戦闘しやすいように分裂体にドロップ品を拾うように気を利かせてくれたみたいだぞ!しかも、1人づつに!」


「そうっすか!グラムさん、ありがとうっす!」


「ありがとうございます!」


「うん!いいの!でも、グラムが集めたのはグラムが来てからの分だけなの!あとは、良くわからないの!」


「そりゃ、そうっすよ!そっちは、私達が知ってるんで大丈夫っす!」


「なら良かったの!」


どうやら、俺達が来る以前のドロップ品は、遙と朔夜が把握しているようである。そこに、二階堂が手を上げて質問をして来る。


「あの、さっきから何を言ってるんですか?………まさか、そのスライムが全てのドロップした物をなんて言うんじゃないでしょうね?」


「そのまさかですけど………。」


「………えっ?」


「グラム、何か出してみてくれ!」


「わかったの!」


グラムは回収していたブラックゴブリンの魔石を一つスライムボックスから取り出す。鳳や長谷部、他の自衛隊員や探索者達はグラムが魔石を取り出すまでは、「何言ってるんだ。」とか「そんなのあるわけない。」と、否定的な事を言っていたが、グラムが魔石を取り出すと皆静かになる。


「証明は出来たよな?」


「………はっ、はい。」


「じゃあ、買い取りの方を頼んでもいいかな?」


「ええ、わかりました。では、担当者をごしょうかいします。宇佐南うさみさん。いますか?」


「はい!ここに!」


と、宇佐南と呼ばれた人は手を上げて出てくる。そこにいたのは、40代位で身長190センチ位ありそうな筋肉質な男の人出会った。


「神月さん。この人が、東京駅ダンジョンうちの買い取り担当の責任者をしている宇佐南公平さんです。」


と、二階堂さんが紹介をしてくれる。


「どうも、ご紹介にあずかりました宇佐南といいます。よろしくお願いします。」


と、手を出して来られたので俺も手を出して握手をする。


「神月サイガです。こちらこそよろしくお願いします。」


「さて、それでは何を鑑定したらいいてすか?」


「あの、その前に1つだけ、二階堂さん、いいですか?」


「はい。なんでしょう?」


「今回、俺達が戦闘を行ったんですが、遂、力が入りすぎたり、ちょっとした暴走のせいで支部を痛めちゃったと思うんですよ。」


俺が周囲を見渡すと、壁や床などに大きなひび割れや亀裂が入っていた。それを見た、二階堂さんの顔は一応は笑顔だったが、その笑顔はスゴく引きつっていた。


「そっ、そうですね。」


「なので、今回の黒いゴブリンから回収した魔石は、俺達の分は全部寄付しますので支部の補修に使うなり、今回の他の人たちの報酬にするなり好きに使ってください。あっ、因みに、俺とグラム達のだけで朔夜達の分は買い取りしてください。」


「えっ!?師匠、それは、悪いっすよ。私達の分も寄付でいいっすよ!」


「そうですね。遙の言う通りです。」


「いいんだって!俺達のは今回はただのお零れみたいなもので、実際には朔夜と遙が頑張ったんだから、正当な報酬は受けとるべきだと思うぞ!」


「そうっすか!わかったっす!」


「分かりました。」


「っと、言うことでお願いしたいんですけどいいですか?」


「ええ。良いも悪いもこちらとしてはとてもありがたい申し出です。」


「なら、よかった。………あっ、そうだ。確か、ドロップ品の中にスキルの書も何個かあったので、それは、内容次第と言う事でお願いします。」


「分かりました。では、始めましょうか。宇佐南さん、お願いします。」


「はい。分かりました。では、まずはどの方からしましょうか?」


「そうですね。じゃあ、1番少なそうな人から行きましょうか?」


俺達は一斉に玄羅の方に視線を送る。


「儂か?もしかして儂が1番少ないのか?」


俺と遙は、無言で頷く。そして、朔夜は、


「お爺様、それは、当然です。お爺様は1匹ずつ時間をかけて倒してましたけど、遙ですら複数を同時に倒していたんですよ。それに、師匠達がお爺様より少ないなんて考えられないですよね。」


「うっ、そういわれればそうじゃが、朔夜はどうなんじゃ?」


「私ですか?私は、お爺様が1匹に集中している間にお爺様を餌………お爺様に襲いかかってくるモンスターを倒してましたからお爺様よりも多くのモンスターを倒していると思いますよ。」


「おいっ、朔夜!今、儂を餌にとか言わなかったか?」


「まぁ、お爺様!耳が悪くなったんじゃないですか?ふふふふふ!」


「………なぁ、遙。朔夜ってあんなだったか?」


「普段はあんなじゃないっすけど、今日はちょっと黒い部分が出てるっすね!」


「あのー、それで鑑定をさせて貰っていいですか?」


宇佐南さんが、遠慮気味に話しかけてくる。


「あっ、すいません。お願いします。じゃあ、爺さん担当のグラムは出してくれるか?」


「は~いなの!」


玄羅担当のグラムの分裂体は宇佐南さんの目の前で玄羅が倒したモンスターのドロップ品を出していく。ドロップしたものは、魔石と皮であるだ。そして、それを宇佐南さんは鑑定をする。


ブラックゴブリンの皮

防御力が高く、加工がしやすい。銃弾も軽く防げる。


「はぁ~!………、まさか、ここまでとは………。」


鑑定した宇佐南さんは、驚愕しているようであった。それを見ていた二階堂さんが、


「どうしたんですか?宇佐南さん。」


「………はい。それが、どうやらこのモンスターからドロップした物の名前はブラックゴブリンの皮と言うらしいんですよ。」


「へぇ~。あのモンスターはブラックゴブリンと言うんですね。それで………。」


「………、それで、この皮の性能なんですが………加工しやすい上に銃弾が効かないと言う性能らしいんですよ。」


「「「えっ?」」」


「どうしますか?これ?」


「そうですね。………ここまでの素材だと私1人では判断できませんね。………………そうだ、こちらのドロップ品を一時的にお預かりして、こちらで値段の検討をさせていただいて、後日、お支払すると言うのはいかがでしょう?」


「儂は構わんが、お前達はどうだ?」


「俺に異存はないよ。」


「私もありません。」


「私もっす!」


どうやら全員異存はないようである。


「全員、後日でもいいそうだ。だが、預り証みたいなものは発行して貰えるんだろうな?いざ、預けて後になって預かってませんなんて言われるのは敵わんからな。」


「そんなことはいたしません。ですが、きちんと預かった数を数えて正式な文書にしてお渡しします。」


「そうか!なら、問題ない。」


「では、鑑定を続けさせて頂きますね。ブラックゴブリンの皮が15枚と魔石が18個ですね。因みに魔石の方は1個1万円で買取りさせて頂きます。なので、天上院玄羅さんは、合計額が18万円になります。」


「おおっ、そうか。」


鑑定が終わると他の支部の職員が玄羅から探索者証を預り代金の振り込みとドロップ品の回収を始める。


「じゃあ、次は私がいきますね。」


朔夜が一歩前に出る。


「いいっすよ!」


「遙、ありがとう。それと、私の鑑定の前に1ついいですか?」


「はい!何でしょうか?」


「さっき遙とも話し合ったんですけど師匠達が来るまでにドロップした品は全部寄付しますので、今回の支部の修理費や皆さんの報酬に回してください。」


「朔夜も遙もそれでいいのか?」


「いいんすよ!スキルの書がドロップしてたらそんなことは言わないっすけど、結局ドロップしなかったっすから。それに、ボーナスは充分に頂いたっす?」


「おい、嬢ちゃん。ボーナスって何だ?」


長谷部が不思議そうに質問する。


「フッフッフっ!それはっすね。経験値っす!お掛けで結構なレベルアップしたっす!」


「確かに結構レベルが上がりましたね。」


どうやら、2人はお金よりも自分が大幅にレベルアップしたことの方が嬉しいらしい。俺なら、両方欲しいところである。こういう時に金持ちとの差を実感する。


「では、鑑定をさせていただきます。………、天上院朔夜さんは、ゴブリンの皮が35枚、魔石が42個になります。そして、スキルの書が1つですね。」


「スキルの書の内容を教えて貰ってもいいですか?」


「はい。内容は、見切りと言うらしいですね。どうしますか?」


見切り

相手の攻撃を見切りやすくなる。


「そうですね。とりあえずは頂いておきましょうか。」


「分かりました。では、合計は42万円になります。」


「まぁまぁですかね。」


朔夜はまぁまぁ満足のようである。


「じゃあ、次は私っす!」


「分かりました。では、お願いします。」


グラムの分裂体が、遙のドロップ品を取り出す。そして、宇佐南さんが指揮を取り、支部の職員が魔石とブラックゴブリンの皮の数を数えていく。そして、その集計が終わる。


「どうだったっすか?」


「桜庭さんは、魔石が50個で、ブラックゴブリンの皮が45枚、そして、スキルの書が1個ですね。スキルの書は、裁縫と言うスキルみたいですよ。」


裁縫

裁縫の技術が向上する。


「そうっすか!何か期待はずれっす!」


「そっ、そうですか。………それで、どうしましょう?」


「ああ、なら買取りで「ちょっと待ってください。」」


遙の言葉を遮り朔夜が割り込む。


「なら、遙、こうしませんか?私が得たスキルの書と遙が得たスキルの書を交換するのはどうですか?」


「私はいいっすけど、朔夜の方が損してないっすか?」


「してないわよ。」


「そうっすか!じゃあ、いいっすよ!」


2人はスキルの書を交換して使用している。


「さて、次は俺達だけど、俺達の分はまとめて支払いを頼む。」


「そっ、そうですね。」


「ただ、2つだけ頼みがあるんだけどいいかな?」


「何でしょうか?」


「誰の魔石が何個あったのか教えてくれるのと、スキルの書があった場合は、誰が倒したものなのかを教えて欲しい。」


「はい。わかりました。ですが、後者の方はわかりますが前者はどういう意味があるんですか?」


宇佐南さんは、よくわからないと首を捻りながら問いかけてくる。


「うちの従魔達は、誰が1番倒したのか興味があるんですよ。まぁ、俺も主として皆には負けてられないんですけどね。」


「ああ、なるほどわかりました。では、少々お待ちください。」


そういうと宇佐南さんは職員の指揮を取り出す。

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