第7話 反骨心
そんな状況にあっても、耕太郎はまだ望みを捨ててはいなかった。
(こんなまちがいが許されるわけがない。仮に自分の言い分に耳を傾けられなくても、対戦相手の選手たちがいる。どんなに不都合な事実であろうと、それを伏せたまま平気でいられるわけがない。すぐに正しいジャッジが下される。)
耕太郎はそう信じていた。ところが、軍配が覆ることはついになかった。
トーナメントは続いていたが、「敗退」した分校チームは早々に本校を後にした。耕太郎は列の最後尾を仲間から少し離れて歩いていた。顎をしゃくり、あらぬ方向に顔を向け前も見ずにもたもた足を運んでいた。
そのとき、列の先頭を歩いていたリーダー格の同級生が二人、耕太郎に気づいて引き返してきた。彼らは耕太郎の行く手をふさぐように立って互いに無言のまま見つめ合っていたが、やがて一人が大きくうなずき、もう一人がやさしく耕太郎の肩に手を回すと、耕太郎はついに堪え切れなくなった。涙が一滴、目からこぼれ落ちた。するともう止めどなかった。人目もはばからずに泣きに泣いた。クラスメイトもつられてみんな泣き出した。三十人ほどの小学生の列は葬儀に向かうかのように深く沈んでいた。
保守的な田舎で育った耕太郎は「先生」と名の付くものは何でも偉いもの、敬うべきものと教わった。幸いそれまでは運にも恵まれ、その言葉を疑うことなく過ごしてきた。掛かりつけの小児科医、幼稚園の保母、小学校の担任、彼がそれまでに接した「先生」と呼ばれる大人にはみなそう呼ばれるに相応しい何かがあった。だから、あのような無礼な物言いをすることはただの一度もなかったし、あそこまでの暴言を吐こうとは夢にも思わなかった。しかし、自分の言動に驚きを覚えながら、耕太郎にはなんら反省も後悔もなかった。
「先生」と呼ばれる人間の中にもろくでもないのがいることを知った。親の言うことが必ずしも正しくないことも知った。だが、何より痛烈に思い知らされたのは、世の中は自分が想像しているほど公正ではないということだった。それがショックでならない。ところが、ひどく気が塞ぐ一方で、ただめそめそしているわけでもなかった。
耕太郎は考えていた。たぶんあの教師だけが例外的におかしいんじゃない。あんな輩は世の中のどこにでもいくらでもいるのだろう。だから、いずれまた必ずやり合うときが来る。
「そのときは絶対に泣き寝入りなんかしない!」
耕太郎はぎりぎりと歯噛みするのだった。
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