野良ネコの落とし物※ネコは出てきません[ショートショート]

駿河犬 忍

野良ネコの落とし物

 カエルの声なのか、セミの声なのか、未だに判別ができない。夏の夜に鳴く生き物は、忙しなく大合唱を繰り返す。遠くで近所のポチが、吠えている。

 無駄に広い寝室に、独りベッドの上で電子タバコを吸う。暇な右手は、スマホの上で探し物をする。

 まだ寝ないでいるか、寝てしまおうか、どっち着かずな時分が、世界で一番退屈であるのは言うまでもない。

 興味のない、文字の羅列に目を這わせながら、また一口吸う。出来もしないのに、煙で輪を作ろうとする。煙は、気が抜けた姿で天井へ。


 あ、窓を開けてなかったな。


 換気をするために、枕の方へ移動し、ヘッドボード越しに腕を伸ばし、窓を開ける。

 もわっとした熱気が、部屋の中に入る。

 エアコンの効いた部屋が、汚された気持ちになる。一番部屋の空気を汚している自分を棚に上げて。

 窓を開けたら、またベッドに座り直し、ながら喫煙を始める。


 今日はまだ、ログインボーナス貰ってないや。


 ぼんやりとそんな事を思って、スマホをいじっている。すると、鼻が刺激をキャッチした。とても不快な臭いがする。タバコの煙ではない。

 焦って、窓の近くまで顔を突っ込む。網戸越しに、肌が熱波を感じ、しっとりとする。

 しばらく、窓の外を観察したが、特に臭いの原因は見つけられなかった。一旦諦めて、暇を持て余そう。

 タバコを吸い終わり、ノールックで蓋付きの灰皿に入れ、閉じる。

 15分くらい経った頃。また、誰もを不快にさせる嫌な臭いが鼻を刺す。

 張り込み刑事の如く、厳しい表情で窓の外を警戒する。またしても、犯人は特定できない。

 怒りと悲しみを背負いながら、就寝準備を整え、不貞寝を決め込もう。



 次の日の朝。仕事に行くため、車の鍵を持って外へ出た。

 玄関近くに停めた車。ドアロックを解く。

 運転席に乗り込む直前、ハッとする。

 私は、柔らかく臭い犯人を、足の裏で捕まえた。

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野良ネコの落とし物※ネコは出てきません[ショートショート] 駿河犬 忍 @mauchanmugi

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