静烈・じょうれつ
桶星 榮美OKEHOSIーEMI
第1話 桜雨
今にも雨が
下一人歩いていると
「加乃恵さん」
と後ろから声を掛けられた
幼馴染の
「
加乃恵は
丞吉郎は
藩主の
「数日前に
「ご家族に何かあったのですか
お体でも
江戸で
加乃恵は
「いえ、どれも
いま江戸は色々と
私は見ての通り元気でし両親も
「それは良かったです」
「相変わらず加乃恵さんは
「威勢がいいだの、そんな事は御座いません」
と加乃恵は
加乃恵は
子供の頃から身分の関係なく
誰にでも気さくで優しく
面倒見がよい
目上の者からも目下の者からも好かれる男で
加乃恵はそんな丞吉郎に
憧れは、いつしか恋心へと変わっていた
そして密かに
と
だがそれが
自分は取り立て美しくも無ければ
どこにでもいる普通の娘であるし
丞吉郎の
下級武士である
「加乃恵さんはお出かけですか」
「はい、姉の所へ行った帰りです」
「
「
「それは良かった。
私も用を済ませ帰るところなんです
一緒に帰りましょう」
「はい」
加乃恵は何もない
本当は、
少しの間でも
恋しい
足取りも軽くなり
このまま時が止まればいいのにと願う乙女心
雨がぽつりぽつりと降り始めた
「ああ降り出したか、急ぎましょう」
人通りの少ない
仕方なく茶屋の
二人で
中から店の者が出てきた
「お
商売の
当店は、
お
お客様が帰ってしまいますよ
それでは商売あがったり
雨宿りはご
と言う
「それは困った、もう少し
なんとか
「こちらも商売ですので
お部屋をお
その店は
男女が
だがこの辺りには他に
雨は
「仕方ない、部屋を借りよう」
店の者は嬉しそうに
「へい有難うございます、お客様ご案内だよ」
―― ―― ――
茶屋の廊下は薄暗く
部屋まで案内すると女中は
「ごゆくっくり」
と言い茶を置いて出ていった
丞吉郎と加乃恵は二人きりになり
加乃恵は丞吉郎と同じ部屋に居るのは
嬉しくはあるが
恥ずかしくもあり身の置き場に困る
一方の丞吉郎も
自分のことは二の次で他人を
いつか想いを伝えたいと考えていた
どちらも口を開けず部屋の中には
外からの激しい雨音だけがこだましている
店の前に並ぶ柳にでも落ちたのだろう
「きゃぁ」
驚いた加乃恵は声を上げた
「大丈夫ですよ、落ち着いて」
背中に手を当てながら
丞吉郎の優しく大きな手を背中に感じ
加乃恵の
再び激しい
思わず丞吉郎は加乃恵を抱き寄せた
加乃恵は丞吉郎の厚く広い胸に顔を
目を閉じながら
丞吉郎も自分のことを
好いてくれているのだと思い
嬉しさで心が満ち
丞吉郎は
自分の胸に顔を
熱い
―― ―― ――
時が
加乃恵は恥ずかしそうに
乱れた着物を直している
丞吉郎は
感情を
と同時に
加乃恵と一つになれた事が嬉しかった
だが、これでは順序が逆である
きちんと
しかも
加乃恵を大切に思えばこそ
その事を
これからの二人の事を話し合わなければ
と考え
「
と口にした
しかし
❝
加乃恵の心は
丞吉郎の想いは自分と同じと信じ
身を
ああ、何と
丞吉郎に
加乃恵は
今にも
声を
「どうぞお気になさらずに」
自分でもわからない
加乃恵が気を悪くしては無いのだと
これからの二人の行く
「良かった、ではこれからの事ですが」
「
そう言い加乃恵は部屋から飛び出した
「どうしたのです加乃恵さん」
呼びかけに振り向きもせず
薄暗い廊下を走り行く加乃恵
追いかけようにも
ただ背中を見送る
もう少し一緒に居たかったのに
二人の将来も話したかったのに
何をそんなに急いで帰ってしまったのか
「まあいいか
ずっと一緒に居られるのだから」
と
―― ―― ――
「お客様お帰りですか、まだ外は雨ですよ」
「ええいいんです、
「はい、ただいま」
加乃恵は
女中が持って来た
雨の中へ飛び込んだ
柳通を抜けると大きな桜の樹がある
その下を早足で歩いていると
満開の桜が雨に打たれ
加乃恵の髪と着物に
色を
家に着くと母の
「遅かったではないか
よそ行きの着物を
志眞乃の所で
全く
もうじき父上がお帰りになる
さっさと着替えて
「はい、申し訳ありません直ぐに致します」
家の事も畑を
三年前に姉の志眞乃が
イノ助の手を借りながら
加乃恵一人で
急いで着替え
父の
そして弟の
家族が済ませると
いつも台所で一人食事をするのだが
昼間の出来事が頭を横切り
「お嬢様どうなさいました
雨に
イノ助が心配して声を掛ける
「そうかも知れないわね」
「それはいかん、
なら飯を食べて体力を付けねば
無理してでも食いなされ」
加乃恵は笑いながら
「イノ
と
加乃恵は
じっと見つめる
つい
幸せを全身で感じていたのに
その幸せは一瞬で消え去り
忘れよう
そう自分に言い聞かせても
切なさで夜通し涙で枕を濡らした
―― ―― ――
あの日から十日も
加乃恵に会う手立てが無く
傷が付くのは女の加乃恵である
ならば親に加乃恵を嫁にしたい
正式に
と決めた
――――――――――
あくまでも支持しているだけで
積極的に関与はしていない
吹けば飛ぶような小さな
財力も軍事力も
薩長からも
何のために集められたのかは誰も知らない
「いよいよ
我が
ここで参加せねば
要するに
このまま何もせずにいて
ほんの少しでも
だから江戸へ行けと言う事だ
続けて井関城代家老が
「しかしながら
必ずしも
だが安心せよ、
そうなったとしても
良きに
何と言う事であろうか
討幕軍に加勢しろと殿からの
七夕戸藩士として喜んで行こう
しかし倒幕が失敗したら切り捨てとは
腹の中で
しかし
藩士として
集められた者達は
その場で
丞吉郎は
と確信していた
長州藩士の
倒幕派の話を詳しく聞き
徳川幕府は滅亡すると悟ったのだ
翌朝には江戸へ
随分と急な
だが加乃恵の事が
せめて
帰郷まではそう長く掛からないだろうし
何と言っても
加乃恵とは
自分の帰りを待っているに決まっていると
そのまま加乃恵に会うこともせず
何も
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