fiLe:電脳遺失物捜索隊-N/A

まものなか

ロクデナシと無為遺産

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 白い空の下、多様な姿かたちの人々が高解像度の街を賑わわせている。“多様”と表されるそれらを眺めるならば、ある者は鈍く光る角をぶら下げて這い回り、またある者は群れの中で騒ぎ泳いでいるような光景がすぐ目につくだろう。ヒトとは程遠い身体を持つ人の入り交じった群衆と統一性のない建造物群が形成する混沌とした景色​───更にそれを違和のない日常として受け入れている低彩度の街は、この世界が電脳空間非現実であることをただ証明し続けている。

 砂粒から曇天まで不自然なほどに鮮明に在る街で、これもまた不自然なほどにポリゴン数の少ない何かが人々の足もとをくぐっていく。

 薄い茶色の猫、のようであった。

 その猫は気の向くままに散歩をしているようでもあり、まっすぐに帰路を辿っているようでもあった。

 街の中で最も賑やかな通りから幾つか建物と路地を挟み、喧騒に背を向けるように位置するビルの一角、誰もが落ち着けるような出で立ちでありながら誰も近寄らなさそうな雰囲気を漂わせる事務所へ、猫は開けっ放しの窓から身体を滑り込ませた。

「やあ、すまない、管理者さんと話し込んでいたら遅れてしまったよ。依頼人はもう来ているかい?」

 遅れてしまった​────と言う割には緩慢な動きと余裕そうな口調で、猫はかすかにほこりとコーヒーの匂いが染みついた部屋の中、狭い机の向こう側の棚を弄っていた小柄な女性にそう問いかけた。

「遅すぎましたね。もう帰ってしまいましたよ。」

 丸くふたつにまとめた髪を揺らして振り向きながら、小柄な女性は軽くそう返した。

「…仕方ない、それなら買ってきたケーキは僕が責任をもって処理するよ。」

 猫がそう言うと、甘い香りの滲み出る箱が何処からか猫の傍に現れ​─────

「ほんの冗談だったのですが…何故笑わなかったのですか?伝わりませんでしたか?」

 小柄な女性によって素早く丁寧な手つきで机の上に置かれ、包装が解かれ始める。

「勿論わかっていたが…助手くん、全ての冗談が笑えるものだと思わないでおいてくれ。」

 不意に、助手と呼ばれた女性の動きが止まる。

「………では、隊長が買ってきた“ケーキ”はパン“ケーキ”だった​──という冗談も笑える冗談ではないということですね?」

 開けられた箱からは優しく甘い香りが、助手からは微かな呆れの混じった困惑した空気が漂う。

「冗談もなにも、ただの事実じゃないか。…ああ、やはり美味しそうだなあ!」

「わざわざ見栄を張ったことが見え見えなことをしないでください、これなら初めから無い方がマシです。」

「見栄本位で行動しているわけじゃないさ、そんなのじゃあ隊長は務まらないのはわかっているだろう?」

「全く……」

 "隊長"の態度に諦めたのか、はたまた意味が無いことをわかっていたのか、助手は隊長を咎めるようなやや棘のある発言を止め、ため息をつきながら切り分けたパンケーキの一ピースをローテーブルに置く。

 それからほんの僅かな間、静寂を挟み───

「​────失礼します!あのっ、…はぁっ、えっと、電脳遺失物…捜索隊の事務所は、こちらでっ、合っていますでしょうか?」

「ええ、お待ちしておりました、"依頼人"さん。」

 緩い三つ編みを背中に垂らした女性が、息を切らしながら扉についた鈴を勢いよく鳴らした。…開かれた扉の速度についていけなかったのか、鈴は扉を貫通していた。

「あっ……す、すみません!」

 一拍遅れて気がついた三つ編みの依頼人は、慌てて鈴を叩いて位置を"正そうとした"。

「…ひとまず、依頼内容を確認しましょうか。」

 奇怪な速度と軌道で吹き飛んだ鈴から視線を外し、隊長は「どうぞ」と三つ編みの依頼人にソファに座るよう促した。


 ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅


「​───なるほど。要約すると、貴方はその"あったはずの絵"を思い出したいということですね?」

「その通りです!確かに見たはずなんです、みんな信じてくれなかったんですけどあれを忘れるわけないです!内容はほとんど覚えてませんけど!」

 理解しやすいとは言い難い説明を早口でそう締めくくった三つ編みの依頼人は自身の気の昂りにようやく気がついたのか、少し身を縮めてパンケーキの最後の一欠片を消化する。

「えっと……場所URLは記録があるので送ります、報酬もあるだけ出します!引き受けて下さいますか…?」

「ああ、必ず見つけてみせますとも。」

 隊長がそう応えると、三つ編みの依頼人は安堵の表情を浮かべた。

「よかった…!!あれは私の道標のようなもので​ずっと───」

 三つ編みの依頼人が説明の中で何度も並べた文をまた口にしかけたところで、助手が小さく咳払いをする。

 はっとした様子でまた身を縮めた三つ編みの依頼人は、詳細な契約を結ぶことにも少なくない時間を要した。



 少なくない時間が過ぎ三つ編みの依頼人が去った後、再び静まり返った部屋はただ薄れてゆくパンケーキの香りとため息が漂っていた。

「…捜索、明日からでいいかな。」

「ふふっ、面白い冗談ですね。もう脳の替え時ですか?」

「君もなかなか冗談のセンスがあるようだ。では、この依頼を冗談にしないためにも​───────捜索開始。」

「了解しました。」

 ゆるんだ空気に一本の針を通すように響いた隊長の声を合図に、助手は空中に“仕事道具”のページを開いた。それはこの世界の住人が皆持つ移動手段……を、法に触れるか否かの境界線まで魔改造したもの。

「データ処理完了。目標サイトへの転移を開始します。」

 かつてそれを造ったいつかの依頼人曰く、高精度の移動のみならず空間の書き出しやら存在の読み込みやらが可能らしい。何か凄まじく専門的なことを弾丸のように話されたな……と隊長は曖昧に思い出す。

「安全運転で頼む、っ」

 隊長の投げやりな祈りを最後に、事務所はしばらく完全な静寂を保つこととなった。




「​─────うぅぁうっ!……徒歩で行くわけにはいかないのかい!?」

「効率、安全、全てを完璧に満たす唯一の手段ですが?」

 事務所の位置する中心街より少し灰色がかった空の下、影が二つ現れる。

「それは君が丁寧にやった場合だろう!」

「あら、私はこのつまらない方法に面白味も加えただけですよ。」

「面白半分で埋められる身にもなってくれ…」

 片方は地中から這い出ながら、もう片方は指先で仕事道具を弄りながら軽口を叩き合う。

「大まかな位置は間違えたことがないのですから、問題ないでしょう。……ほら、今回も​───おそらくこの施設サイトですね。」

 先程まで画面を見つめていた助手は、淡い灰色の空よりは鮮やかな灰色の建造物に視線を飛ばす。良く言えばシンプル、悪く言えば安っぽいデザインの外壁で覆われたそれは、まだ存在できていることが奇跡のように思えるほど古い印象だった。

「……個人運営のイラスト投稿サイト、…だったか。それにしても酷い有り様だね。」

 目の前の建造物に貼り付けられて崩壊するべき時を見失ってしまったかのように佇むゲートを眺め、隊長は温度の無い同情を吐き出した。

「外からの情報収集は十分でしょう、内部の安全もある程度確認できましたから入ってみましょうか。」

 ゲートの前に立った助手は浮かぶ仕事道具に数回軽く触れて、沈黙と形をかろうじて保っていた空間を歪ませる。そうして二人は“その場所を呼び出した”とも捉えられるような過程で建造物の内部へ入った。​

 入り口のすぐそばから、かなりチープな印象で且つ隊長の姿に負けず劣らず低画質の内装UIが果てなく似たように展開される壁紙にしがみついていた。入ってすぐの広間に転がる数字の並びはかつてそこを訪れた人数を知っていたようで、『貴方は███人目のお客様です』とコードを狂わせながら繰り返していた。どうやらこの広間が施設の中央らしい。

「…こんにちは。作品の検索はできますか?」

 助手が無秩序な数字の羅列に問いかける。

「ハローハロー、こちらはメインサーバー​───なんて返すわけないだろう。君は来訪者カウンターを知らないのかい?」

 ふざけた調子で隊長だけが愉快そうだった。

「私は真剣に調査をしようとしていたのです。“これ”が応答可能なシステムではないとはわかっていました。」

 対する助手はきわめて冷たく、(照れ隠しのように)苛立った様子で来訪者カウンターを軽く叩く。

「君も若いからね、知らないのも無理はないさ。これはアクセス人数をカウントするもので、昔の個人サイトなら大抵置かれていて​───」

「調査を進めましょうか、おじいさん?」

「……若い子は意欲があって素晴らしいね。」

 広間の脇から無数に無限に延びているようにさえ感じられる通路のうちのひとつ、崩壊が少ない画廊に二人は足を踏み入れる。均等に並べられた絵たちは個性豊かで、そこにぶら下がっている感想たちもまたそうであった。​​─────[ぜんぜんかけないorz]『神絵キタ━(゚∀゚)━!』『嘘乙』『謙遜しすぎは逆に印象悪いぞ』─────[オリキャラちゃん!名前ぼしゅーちゅーですっ( ^-' )]『か、かわいい〜〜〜!!!私と同じぐらいかわいい(((((』​​─────[500兆年ぶりに描いた子。盛りすぎた]『今日はこれでいいや』『エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ』

 ​─────[これは幻覚rkgk]『めちゃわかるすぎ良…』

 当時の人々の感情を興味深そうに読む助手は古傷をえぐられたような様子の隊長にそれを中断させられ不服そうであったが、またいつもの調子で冗談を言い合いながら画廊を歩きだした。

 施設は最後の一人が去ってから久しいのか、落書きに重ねた落書きや下描きの欠片で混沌とした画廊は一部風化データ破損していた。

「とりあえず、最深部まで行ってみようか。」

「依頼された絵の見当はついているのですか?」

「いや、全く。」

 乱雑に積まれた何かのデータに時折進路を阻まれながらも、二人は止まらず画廊の奥へ進む。

「はい?」

 否、助手は立ち止まる。

「全くわからない。どういう作品で、どこにあるのか。」

「ゆっくり言われても変わらず聞き返したいのですが、もしかして総当たりをするつもりですか?」

 助手が後方から声をかけようともそのまま歩みを止めない隊長に駆け寄り、再び二人で進む。

「いくらなんでもそれは無謀だよ、全部の中から探し出しはしないさ。こうして表側に表示されているものだけでも随分と数があるだろう?」

 だから​───少なくともそれらは除外する、と隊長は続ける。

「依頼人は場所を知っている、おそらく彼女も公開されているものから探したのだろう。しかし我々に依頼をしたということは、そこからは見つけられなかったと考えられる。」

「つまり非表示のものから探すのですね。……それも実質総当たりと相違ないのでは?」

 助手の言葉に肯定を返そうとしていた隊長は、思わず冷ややかな視線にそれを飲み込んだ。

「……ともかく、餅は餅屋​───専門家は求められた技術で専門家の仕事をするまでだ。」

「この餅屋はきっと売れ残った餅を詰まらせて閉業するでしょうね。ひとまず非公開処理がされたものを復元します。」

 助手がそう告げて仕事道具に触れると、壁の裏や地中、あらゆる底の底から湧き出る無数の破片が“存在しない画廊NotFound”を可視のそれとしてひとつ創りあげていく。そこに並べられる絵は投稿者の良心か、或いは管理者の判断か、はたまたシステムの出来心かによってここに存在できなくなったデータの群れのようであった。そうわかるほどに“ろくでもない”ものばかりだった。作者の(理解し難い)趣味が強く出た絵、もはや絵とは言えない文字の列、誰かの日記、どこかの写真​、過激なコメント───思わず目を背けたくなるそれらは、色褪せても確かに在った現実なのだろう。

「……これを全て見るのは骨が折れそうですね。」

「やるしかないさ。」

 感情を振り払うように飛び出した隊長は片面の画廊の隅から画像を保存し始めた。もう片面から続く助手も視線を逸らしながらもそれらを記録する。

 あらゆる情報が混沌と掻き混ぜられたそこでどれほど作業をしていただろうか、と多くの人なら時間と進歩に縋り始めるであろうところで隊長は動きを緩め、ついには止まった。

「……一つ、調べたいことがある。」

「それって…この投稿者のこと、ですよね。」

 互いに非公開作品を見ていくうちに気がついたことを共有する。ほとんど確信に近いそれを確かめる。

「ああ。作品やコメントにこれといった問題がないにも関わらず、非公開が多すぎる。アカウントごと消された可能性が高い。」

「それに────ついているコメントがあまりにも印象的ですね。」

 ​─────[昔‹‹データ復元失敗››デッサンを‹‹データ復元失敗››。]『また盗作?』『汚な』『わたしは好きだけどな…』『‹‹データ復元失敗››‹‹データ復元失敗››←これと酷似。確信犯だね』『リンク切れしてんぞww』​─────[盗作じゃありません。私は‹‹データ復元失敗››を‹‹データ復元失敗››!!]『物証あるんだよなあ』『泥棒の言うこととか誰が信じるん?』『信憑性ゼロで草』『効いてる効いてるwwww』

“印象的”という言葉ではその暴力性は到底収められないほどのコメントの数々は、ひとつなら誰かの悪戯で片付けられただろう。しかしその誰かの指摘はまた他の誰かの便乗が起こす連鎖によって真実足りえていた。

「これ……データが破損しているのかと思ったのですが、そもそも最初から全て存在していなかったようです。根拠もないですし、盗作ではなさそうですね…」

“真実”を指さすコメントのひとつを放ったアカウント、それを遮るように浮かぶ‹‹アクセス不可››の文字を目にして助手は呟いた。

「それから、この投稿者のコメントも第三者から意図的に壊された痕跡がありますね。」

「…つまり、誰かの工作だと?確かにコメント数が異常に多いね。」

 意図があるのか、はたまた単なる気まぐれか、何であれそれを利とし笑う者も害とし責める者も居なくなった画廊はただ静かだった。何か考えついたのか、その静寂を隊長が破る。

「投稿者の諸データ復元を頼めるかい?もしかすると​───依頼の鍵になるかもしれない。」

「了解しました。可能な範囲で限界まで掘り返してみます。」

 頷いた助手が仕事道具にしばらく向き合っていると、空間を異常が喰い破った。存在しない破片が空白に突き刺さり、陽炎のように融けた情報の塊がノイズを形成する。

「エラー潰しは頼みましたよ。」

「もう始めている、よ!」

 隊長は前足を大きく振りかぶってノイズを勢いよく叩く。傍から見れば俗に言う猫パンチのようだが、それとは比にならない威力を以てノイズを霧散させる。

 絶え間なく湧き出る異常に対して、湧いた傍から隊長は慣れた様子でそれを無に還していく。電脳世界の許容範囲外、製作者の想定外に位置する技術​───即ち彼らの仕事道具が持つそれを引き出せば、エラーのひとつやふたつは当然溢れてくる。それに対抗するものとして単純な暴力を用いることは、電脳遺失物捜索隊にとって珍しいことではない。

「ふんっ、はぁっ、ほっ!」

 どこか楽しげな隊長の様子がその理由を語っているようだが、純粋な感情だけでなくれっきとした理由もあるのだろう。隊長が跳ね回るこの光景だけではそれは推測の域を出ないが。

「…こいつで、最後か。」

 隊長が薄いノイズを踏みつけて着地する。

「これを除けば、ですが。」

 いつの間にか仕事道具から手を離していた助手が隊長の背後で喚くノイズを握り潰す。

「君も頼もしくなったものだね、要求を出すならもう少し早く加勢してもらいたかったのだが。」

 途中から眺めていたのだろう、と付け足して隊長は視線を送る。

「面白そうだったのでつい迷ってしまいました。……それよりも、解析が完了しましたよ。どうやら投稿者はかなりのデータを遺していたようです。」

 ふと気がついて見回せば、二人は色彩の浮かぶ画廊からファイルの並ぶ書斎に立っていたようだった。

「遺していた?…ああ、そうか……もう居ないのか。」

 開かれた文書のうちのひとつ、“市民データ”という項目に目をやると“状態:死亡”という情報がすぐに入ってくる。その文書に重ねるようにまた別のファイルが開かれる。

「ログがほとんど無事で助かりました。これは…日記でしょうか?」

 それは数世紀前の年月日、あるがままの遺産。そこに記されていたのは、絵を描くことへの強い想いや日常で考えていたであろうこと、自身の性格に関する悩みやそれをくだらないことだったと笑い飛ばす感情…

 誤字が多く決して読みやすくはないが、確かに“生きていた”であろう痕跡があった。日が進むにつれて抜け落ちたデータも増え、最後の数ページはほとんど形を成していなかった。

「いわゆる“ドジっ子属性”の女性だったみたいだ。………これは…やはり……」

「ド…属性??どういうこと…??」

 助手には理解できない単語を放ち、隊長はそれきり思考に沈んでしまった。

 矛盾した孤独に取り残されて手持ち無沙汰な助手は、策もなく再びファイルを漁ってみる。

「…!これ、もしかしたらヒントになるかもしれません。」

 助手が手に取ったファイルには、『重要!ゼッタイ確認する!!』と大きく印がつけられていた。

「何か見つけたのかい?……えっ。」

 ファイル内の項目名を目にして思わず隊長は声を漏らす。声こそ出なかったものの、助手も同じく衝撃を受けているようだ。

 そこには、“電脳遺失物捜索隊への依頼について”と名付けられた音声データが佇んでいた。

「……更新履歴、日記と同じ…ですよね。悪戯?どうして……」

「依頼人は本当に真剣だった、それはないだろう。…ひとまず内容を確認しよう。」

 助手は動揺する手のまま、データを開く。


 私は███████████。████████と思う。██制は、たぶん█████探しに来る███████そしたらいつか███████████

 きっと電脳遺失物捜索隊なら辿り着███████じゃなくても、これを見つけてくれた誰かへ。あの三つ編みの人は私の絵を探しています。これと同じファイルにあるので、持って行ってあげてくだ█████████があるなら、元に戻しておいてほしいです!

 最後に、████████ごめんね。

 ろくでもない人生だったけど、███████らいいな。


「ヒントというか…答えそのものでしたね。……気になる点はありますが、依頼はこれで解決できそうですね。これが嘘でなければ。」

 未だに状況を飲み込めてはいないが、助手は目先の目的をこなすことにしたようだ。ファイル内の画像データの無事を確認し、手際よく保存した。それは雲ひとつない青空、鮮やかで生命感が溢れる祭典の様子を描いたもののようだった。

「…まあ、投稿者が本当に盗作をしていて、これらの日記が全て嘘だった​────という可能性も否定しきれないが、最悪我々の話術で解決したことにすればいいさ。」

「…確かに依頼人は純粋そうですが、流石にそれは……」

「冗談に決まっているだろう。ほら、帰って報告するよ。」

「今度は何メートル埋めて差し上げましょうか?」

「すまなかった。」

 いつもの調子で二人は笑わずに笑う。書斎も画廊も“落とされる”。後に残ったのは、深い曇天だけだった。


 ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅


 施設の調査から少し時が経ち、依頼人へ報告する時が訪れた。

 例の“可能性”の考慮はどうやら完全な杞憂だったようで、三つ編みの依頼人は「わあ!まさにこれです!本当に見つかったんですね!ありがとうございます!」と、跳ねるような声色で長い間同じような感謝を述べていた。

 それからまた少しの時間をおいて​────



「気になることがある。」

 ようやく正常な位置を思い出した鈴が鳴り終わり、隊長は言う。

「…そうでしょうね。この件は不可解な点が多すぎましたから。」

「あの投稿者は何者なのか、が最大の疑問点だね。けれど…踏み込みすぎてはいけないようにも思える。」

 嚥下しても尚未だに消化できない心残りは、彼らの中心に居座っているようだった。

「それでも明かしたいのは私も貴方もきっと同じでしょう。とりあえず、残っている未解析データを確認してみましょうか。」

 そう告げると助手は書斎で得たデータを片っ端から打ち込み、仕事道具に通していく。

 短いとは言えない時間、待ちかねた隊長も助手の肩からそれを覗き込む。……待てども待てどもデータが吐き出すのは既知の情報や些細な情報ばかりであったが、それでも待ち続けているとひとつの画像データを抱えていることに気がつく。

 項目名、“自画像”。


 ​─────そこに描かれていたのは、紛れもなく三つ編みの依頼人だった。

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