後編 終わりの断罪


「ただいま」


誰もいない暗い玄関に声が響く



カチッとスイッチを押すと、白い照明が玄関が照らした。


二人は靴を脱ぎ廊下を歩きだす。


床が軋む音が鳴り響いていた。



少し先ある扉を開くとキィーと音が鳴る。

そこには広めの部屋があった。


また、カチッとスイッチを押すと照明がつく。


「ここがリビングな」


リビングの中央には背の低い円形の机と隅にパソコンがあった。

それとクローゼット。

そして、右奥に二つのギターが壁に寄りかかる様に置いてあった。

一本は使い古され、所々小さな傷がある。

もう一本のギターには見覚えがあったが、玄がすべて雑に切られていた。


「これが、あいつのギターな」

使い古された方のギターを指さし、そう言った。


「...少し触ってもいい?」

「...いいよ」


ギターを両腕で抱え、優しく弦をはじくと、ジャーンと音が鳴った。

よく聞く音色だった。


「...」

「チューニングはされてるんだね...」

「...まぁな」



僕はギターを元の場所に戻し、周りを見渡した。

「ほかに友人の物はないの?」

「ない」

「もともと、金なかったから少ないし、捨てたよ。3か月も前だしね。」




鳥谷はガラガラとテラス戸を開きながら

「はぁ...すまん、ちょっとタバコ吸ってくるわ。部屋まだ見てていいよ。」

と言い、暗いベランダに出て行った。



もう一度、周りを見渡す。


壁掛けのアナログ時計のカチカチという音が響いている。




もう本当に友人の持ち物はこの部屋に無いようだった。




僕がまだ見ていないのは、クローゼットだけだった。



「...ねぇ、鳥谷。」



鳥谷はベランダからこちらに背を向けながら答える。

「...なに」


「...クローゼットのなか見ていいかな...」


ふぅ...と煙草の煙を吐く音が聞こえる。



「...いいよ」



僕は扉の取っ手の部分を掴みゆっくり開けた。


中にはいくつかの服が掛けられていた。

その下には

いくつかの写真が置かれていた。


「...ギターとそればっかりはさ、捨てられないんだよ...」


写真には鳥谷と友人が肩を組んでいたりピースをしていたりと、どれも楽し気なものばかりだった。

小さな額縁に入った写真を一つ手に取る。



「......」



写真に写っている鳥谷と友人。

その友人の顔は

その顔には

僕は、見覚えがあった。

僕は、彼の目を見たことがあった。




「高校からの悪友で。」「男同士だったけど、けっこう楽しかったよ。」

「「彼の目は僕を強く睨みつけ離さなかった。」」

「あいつの母親が病気しちまって。」「必死だったよ。俺もだけど、あいつの方が。」「教えてくれなかったんだ。親友なのにな。」

「「さっきまで僕を睨みつけていた、眼は誰かに助けを求めているようだった。」」

「一緒にバンドで有名になろうって約束したのによぉ...破りやがってよぉ...」

「「彼は仰向けに横たわっていた。目を、見開いたまま。」」




写真を落としてしまった。

カタンと音を立てて。


手が震えてる。



「...あぁ...」



両膝から崩れ落ちた。

まるで正座をするように。



ポツポツと



「...あぁ...あぁぁ...」



ポツポツと写真に水滴が落ちてゆく。



水滴が落ちてゆく



ただ、水滴が落ちていった。






僕の手には、拳銃の重みだけが残っていた。






-完-

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガン・グラビティ ゴミ箱 @thukizuki_hajime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ