残陽に灯る眼
@dis-no1
人を待つ朝
まったく君という人間は、もうすこし自分の見た目というものに気を使うべきである。
君はマッチングアプリで会う約束をした相手を待っている。遅刻だけはすまいと早めに家を出て、早すぎる到着をした結果、先ほどから寒風の中一人立ち呆けている。
先に着いて待とうとするその心がけは良いだろう。だがその服装を見るに、君は晩秋の北風を侮りすぎていた。
木枯らしが一陣吹き抜け、それに落ち葉が引きずられていく。季節の変わり目に吹く風は、まだ夏の温かさを忘れきれない体には妙に冷たかった。道行く人には既に冬の装いをしている人も見られる。駅前のコンビニには「おでん」と書かれた
時計台を見ると時刻は9:00。待ち合わせの時間までには、まだ1時間以上ある。
こうして暇を持て余すくらいなら、もう少しクローゼットを漁ってみれば良かっただろうに。今よりいくらかマシな格好はできたはずだ。
何せ君の服装は、まず季節に合っていないのは言うまでもないうえ、とても初対面の人と会うのに適したものとは言えない。
まず二年も履き古したジーンズだ。よく見るとスソがほつれて、縫い合わせの裏が見えてしまっている。この程度、どうせバレやしないと履いてきたのだろうが、そういう詰めの甘さで君はいつも失敗してきた。一方、白のパーカーは状態は悪くない。つい2ヶ月前にアウトレットセールで買ったものだからだろう。だが問題はある。パーカーという選択そのものだ。既に三十路を控えた君のその年齢と今日の用向きを考えると、この服装はいささかお気楽が過ぎるのではないか。
だがこれも、無理からぬことかもしれない。なにせ君は昔から、自分を着飾るのが苦手だったのだから。
君は寒風に冷えた手を、パーカーのポケットに突っ込む。君のおよそ防風性など皆無なその恰好では、今日は一日寒い思いをするかもしれない。もちろん、今更家に帰って着替えるわけにもいかないのだけれど。
時計をもう一度見る。まだ9時5分。待つだけの時間は長い。
立ちっぱなしでは余計に寒くなるばかりだ。なにか温かい飲み物でも――
相手だって早めに来るかもしれない以上、ここを離れるのは君の望むところではない。とはいえ、自販機でなにか買ってくる余裕くらいはあるだろう。
さて、君は――
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