第56話


「ああ。いつもお前を見てた」


「故にきっと、この二日間とは始まってる。定義も付けられないあんた達は、自分を認識出来る存在を特別視し執着する気がある。そう、気がある。これも確かめる術の無い私の推測。足立は廃神社で悪さしたその日から、自分の部屋にいると視線を感じるようになったとか、外にいても常に見張られている気がしてたとか、妙な感覚に襲われるようになったと病院で守谷に話してた。廃神社での悪さから三日後に肝試しをやろうと言い出した理由は、コンビニで様子のおかしくなった守谷が言ってた通りに、おきつね様の機嫌を損ねたから。なるべく多くの人を呼んで許して貰わないといけないんだと言って、井ノ元達とうぐいす旅館に行こうと計画したのは、あんたの無言電話宜しく、廃神社を荒らされた怒りによるおきつね様の報復なんじゃない。仮に幽霊だの神だの、怪奇と一般に括られるあんた達が誰からも認識される存在なら、きっとあんたも私にこだわってないし、おきつね様だって忘れ去られる事無く今も在った。でも自分達を認識出来る人間とは限られる。足立も私と同じく、偶然その一人だったんでしょ。そしておきつね様もあんたと同じく、自分を認識してくれる人間達を増やそうと、見える人間を起点に事を起こした。報復相手を足立に留まらず、無関係な井ノ元達や、私を庇ったモトにまで広げて、己の存在を示す為に。肝試しに行かせて怖がらせようなんて可愛い報復だけれど、いや、足立が巻き込んだ人達ごと破滅してしまえばいいとそこを指定したのかもしれないけれど、うぐいす旅館はうぐいす旅館で幽霊がいた。うぐいす旅館に向かう直前には、あの黒い奴とあんたっていう幽霊がいたのを知らずに、モトを除いた全員が部室に忍び込んでる。肝試しに行くならそれらしい事をしようと、おきつね様とやらにそそのかされた足立を起点に。……モトが急性虫垂炎で済んでるのはあんたの計らい? 悪いものを一気に集めた状態で足立達はうぐいす旅館に向かって、そこから一週間あんたのイタ電に怯えてたら、今度はうぐいす旅館の幽霊に目を付けられてあの写真を生み出された。足立だけ首無しになってたのも、あのメンバーの中で唯一見える人だったからと言えばそれらしくなる。うぐいす旅館には持ち主が首吊り自殺した曰くもあるし、おきつね様とあんたに目を付けられた足立の状態に気付いて、自分も負けじと写真でアピールしたんじゃない? 肝試しから一週間のラグを挟んであの写真が現れたのも、丁度ちょうどあんたがイタ電を止めたタイミングと重なる。それはあんたにとって予想外の事態となって、慌てて私を踊り場へ呼び寄せた。あんたがただの学生として存在出来ている拠り所を、他の奴らに取られる訳にはいかないから。モトが妙に私とあんたを避けてキイに写真を送ったのも、うぐいす旅館の幽霊が、あんたに気付かれるのを避けられないかと誘導したんだとしたらそれらしくなる。そしてこの推測が正しければ、あんた達怪奇の力関係も見えて来る。部室の黒い奴、おきつね様、うぐいす旅館の幽霊。これらはあんたを恐れてる。黒い奴が今まで部員に悪さしなかったのも、昨日、私とあんたは最後まで行動不能になるような目に遭わなかったのも、あんたがこいつらから私を守ってたからだ。あんたの次に強いのがうぐいす旅館の幽霊で、その下がおきつね様。おきつね様は、そそのかした足立を使って私や井ノ元達を肝試しに連れて行こうとしたけれど、私はモトに守られて不参加で済んだし、足立を自宅の階段から落下させるという形で報復を終わらせてる。おきつね様という言葉を口にしたのは足立と、足立に連絡した守谷だけだから、自身の存在をモトや井ノ元達にまでは知らしめられていない。多分肝試し中は、うぐいす旅館の幽霊の目を恐れたんだ。そしてうぐいす旅館の幽霊は、モトを除いた全員にイタ電をかけているあんたを恐れて手を出さなかった。でもイタ電が終わればあの写真。もし写真もおきつね様によるものなら、足立や守谷にさせたように、自分についてモトや井ノ元達にも喋らせてる筈。一番立場が弱いのは軽音部の黒い奴だろうね。部室や校内には常にあんたがいるから、ああやって突っ立てる事ぐらいしか出来ないんでしょ。まして私がいる前では」


「やっぱお前は最高だよ」


 心底からの賞賛を送る。最高以上で笑みが漏れる。


「幽霊を言い負かせる奴なんてきっとお前が人類初だぜ? その通りだ。モトがうぐいす旅館に入って盲腸で済んでるのは俺の気遣いだし、どいつもこいつも俺にビビってる。常に人間が行き来する土地を根城に、お前っていう見える奴を独占して毎日真人間気取りだ。誰も俺を幽霊だなんて思いやしねえ。本当は不確か極まりない、定義出来ない怪奇そのものなのに。でもいいじゃねえか。これでこの二日間の説明が付いた。俺がいる限りお前は無事だし、キイもモトも日常に戻って来られる。きっとこの一件で、辺りの怪奇共も俺達に手を出そうとは思わなくなったさ。もうこれまで通りだ。そんな所でびしょ濡れになってねえで、教室に戻って夏休みの計画でも練ろう」


「うぐいす旅館でキイを殺そうとした」


 シーは刺すような視線を緩めず言った。



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