第26話


「真相に辿り着いてどうするんだ」


 全く諦めていないシーの頑固さに、歯痒さを覚えながら尋ねる。


「それがおきつね様だの、軽音部の幽霊だのの、本物の怪奇の仕業だったとして、お前はどうこの件を終わらせる。調べ回って結局は常識が通じない相手が犯人だったら、警察に突き出す事も出来ねえし、話も通じねえって事になるんだぞ。全部無駄だ」


 シーは視線を上げ、やっと俺を見た。


「話は通じる。井ノ元が飛び降りる間際、『ほんとうにすみませんでした』って言ってた。状況的に私達に向けた言葉とは捉え難い」


「通じてたら飛び降りる状況から逃れられてたんじゃねえか。ただの命乞いみたいな独り言かもしれねえ」


「そうだったとしても、自分の意思で言葉を発してたという事は、井ノ元にはあんな様子でも意識はあった。自分の意思で四階に来て、あの窓から飛び降りるって判断を下して、その間際に謝罪までしてる。表面的にはとても正常には見えなかったけれど、あれは極めて理性的な行動だった。という事は井ノ元は、突然気がおかしくなって飛び降りたんじゃなくて、何かそうせざるを得ない理由があると理解して飛び降りた事になる。飛び降りなかった場合の未来で起きる、より大きな問題を避ける為に。理性的だったからこそ重傷や死をなるべく避ける為、木に落ちるって判断を下せてたって思わない? 久我くがも原部も。つまりあの三人の飛び降りは、それを指示した何者かによるもので、指示が出来るという事は言葉だって通じる筈。それがたとえ人間じゃなく軽音部の幽霊だとしても、状況がそれを示してる。三人に飛び降りを指示した者とは、人間とコミュニケーションが取れるって。なら私の言葉だけ通じないって事も起きないでしょ。真相を突き止めて誰が犯人か分かったら、何が理由か知らないけれど、人に危害を加えるような事はやめろって言いに行く。私達の身の回りで集中して妙な事が起き続けるって事は、どうせその犯人も、私達のすぐ側にいるって事なんだから」


「シー!」


 気持ちを堪えるつもりが、強い語気で呼びかけてしまった。


 シーは驚いて少し目を見開くと、手を解きながら背筋を伸ばし俺を見据える。その顔は疲労が滲むも、いつもの考えの読み辛い無表情だった。反論せずじっと俺の言葉を待っているその様に、俺は更に感情的になる。


「……思わねえか? 俺達の周りでだけ起きるって事は、その犯人は俺達を狙ってるとも考えられるって。異変が起きてるのは肝試しに行った奴らが主だが、無関係な守谷や藤宮もおかしくなったろ? 自分や俺にも危害が及ぶかもしれねえって何で考えねえ? 今の内に手を引くんだ。もうどれがきっかけで何が起きるのか、分かんねえんだぞ!」



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