第25話
後輩達の前で図書館に行くと喋ってしまったので、素直に足を向ける気にはなれなかった。もし警察に行き先を知られたら面倒事が増える。
かと言って他に行き先も思い付かず、図書館とは逆側へ走った。古い家が並ぶ生活道路に入ると、空き家だらけになった突き当たりまで行き、寂れた公園に入る。最後に近隣住民に利用されたのは何年前なんだろう。木々も雑草も山の中のように自由な成長を続け、全ての遊具を呑み、土を緑で覆い尽くしていた。息を切らした俺達は、揃ってブランコに腰かける。
何分ぐらいそうしていたんだろう。ここの蝉達は一度も止まらず鳴き続けていて、二人とも黙っているのに辺りは騒々しくて奇妙だった。いや、これこそが夏らしい風景か。さっき校舎にいた時は妙なタイミングで黙ったり鳴かれたものだから、感覚がおかしくなる。やっと息が整って来た所で切り出す。
「……もうやめた方がいいんじゃねえか。この件について調べるの」
隣で背を丸めて呼吸を整えていたシーは、俺を一瞥した。表情は垂れ下がっている髪でよく見えない。
俺は続ける。
「妙な事が起き過ぎてる。今朝からずっとそうだ。モトは昨日まで元気だったのに急に病欠。かと思えば今日の夜中キイへあの写真を送ってて、井ノ元、久我、村山、原部を呼び出して肝試しについて
シーは俯いたまま答えない。肩が緩慢に上下しているので、まだ息が荒いんだろう。
自販機の一つでも無いんだろうか。辺りを見渡すと、出入口の脇で雑草に埋もれながら突っ立っていたが、蔓に纏わり付かれているわ商品のサンプルが殆ど見た事が無いものばかりで、
一旦シーをここで休ませておいて、水でも買って来るか。極度の緊張と混乱で気が回っていなかったが、喉はカラカラだし全身汗だくで気持ち悪いし、もう木陰にいようと暑さで倒れそうだ。
俺は腰を上げる。
「ちょっと休んでろ。水でも買って来る」
「どうしても腑に落ちない事がある」
俯いたままシーは言った。
歩き出していた俺は、ブランコの周囲を囲っている低い柵を跨ごうとした足を引っ込め振り返る。
シーは顔を上げないまま続けた。
「三人が飛び降りた理由に、軽音部の幽霊は関係無い」
「……何でそう思うんだ?」
「軽音部の幽霊の噂に、危害を加えられたって内容のものは登場しない。夕方頃に黒い人影が出るってだけで原因も語られていないし、遭遇したら何か起きるとも言われてない。ただ、部室やその付近で現れるって事だけ」
溜め息を堪えてシーに向き直る。
「その噂が事実だったらな」
「それに、井ノ元達が部室に忍び込んだのは一週間前。もしあの飛び降りが軽音部の幽霊の仕業で、モトがキイへ相談してたように部室に忍び込んだ事で軽音部の幽霊を怒らせたのが原因だったとしても、報復まで一週間も時間を置いてる事になる。このラグは何? まるで何かのタイミングを待ってたみたい。それに足立の首が無くなってた心霊写真も、軽音部の幽霊の噂の内容と一致する部分は無い。足立が階段から落ちて病院に運ばれた理由も守谷曰く、おきつね様っていう何らか。何も繋がりを感じられないこの三つが全て、今日の内に起きてる。この三つにとって今日という日は何か特別な意味があって、事を起こさなきゃいけない何らかの理由があるんだと思う。そしてこの三つ全てが私達の身の回りで起きてるって事は、その理由とはきっと、私達の側にあるんだ」
シーは顔を上げた。だがその目は俺を捉えておらず、自身の思考に沈んでどこか遠くを見ている。シーはそのまま俯くと、膝に立てた両手を口元で組んだ。
「……まだ気付いてないだけで答えは近くにあるんだ。真相には近付いてる」
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