統木の花嫁、海を征く

奈月遥

【最初の死者】

神婚

 皇居に鎮座する天を衝くような巨大な統木すばるきは、この国を治める神のおわする御神木である。

 その統木に五百年に一度咲くと伝わる花の蕾が膨らみ遊ばしておられ、白い花珠はなたまは今にも綻びそうに見られる。

 その花の御前にお立ちになるは、今上帝の三番目の皇子にあられる。

は御身のすえにして、今世こんぜ花夫はなづまを望み、お慕い申し上げる。吾が身と心とたまの誠を見給え、吾が命の成してしと為したると成さらむを計り給え。御身の花嫁を迎うるに足ると思し召さらば、その咲かせ身に触れさせ給え」

 皇子は両腕を目一杯に広げて誓約うけいを奏上なされて、大神おおみかみの花嫁をこいねがう。

 花珠は皇子にお応えなさってあわせをはらりと解かれて、白い花弁が咲き開くとその内より人と同じ姿をなさった神の化身をお見せになられた。統木の花嫁であらせられる。

 生まれながらにして人の女性の最も美しさを誇る頃合いの容貌をされている花嫁は、御身を呼ばわった皇子の姿を見下ろされ、手をお取り遊ばれた。

 それ即ち、神が人に降嫁なされる契りに違いなかった。

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