第四章 『 試練を乗り換えし者(後編) 』
048:中央都市での初日
「 この度は、寝台魔導列車スライクのご利用、誠にありがとうございました 」
『 ありがとうございました 』
先程まで列車で活動していたスタッフさんに加え、駅内で業務をしている多くの職員さん達が、到着した『中央都市始発駅』のプラットホームにズラッと並び列を作っては、満足感と共に降車する客の一人一人に感謝の礼を述べている。
田舎町では想像出来ないほどに広大な施設、更にそんな大きな作りをしているにも関わらず、華やかな売店や観葉植物にそれを楽しむベンチなどが完璧なまでに配置されている為、質素など全く感じさせない駅内を目に圧巻を感じながらも、俺たちもそれぞれの荷物を手にお世話になった部屋を後にしようとしていた。
「 これで、この部屋ともお別れか 」
1日と少しとはいえずっと感じていた独特な振動や走行音が止まっているのはなんだか不思議な感覚で、それがこの列車との別れを少し寂しいものに感じさせる。
色々あったが、乗り心地や過ごし易さだけを言うのならとても満足のいく体験だった。
皆思う所はあるようだが、伸びを一つ、歩みを進める。
どうやらギリギリまで
そんな一行を目に、スタッフの皆さんはそれまで見送ってきた客以上に統一された動きでバッと頭を下げては「ありがとうございました」と礼をむけてくれるのだか……いや、恥ずかしい。
どうやらそう感じているのは俺だけではなかったようで、幼馴染の二人も「いえいえ〜」とか「こちらこそ〜」と歯切りの悪い言葉を口にしている。
「 皆様、今回は寝台魔導列車スライク特別席のご利用、誠にありがとうございました 」
そうして見送りの列の最後尾、そこにいた代表3人を前に足を止める。
柔らかな笑みを浮かべたダールさんにオリゴさん。そしてその横にはリサさんもいて、なんとか取り戻せた彼女の綺麗な笑みを見ていると、なんだか少し意地悪をしたくなった。
「 まだ少し目元が赤いままですねリサさん 」
俺たちと話してる時も思い出したように、時々涙滲ませてたからな〜……
そんな言葉に彼女はハッと目を見開くと少しだけ恥ずかしそうに顔を伏せるが、その反応に幼馴染と共に微笑を漏らしては「すみません」と口にする。
「 ダールさん、それではお土産の方はウィルキーへお願いします。何から何まで、ホントにありがとうございます 」
「 いえいえ、この程度我々にかけてくださった寛大なお心に比べれば些細なことにございます 」
列車が到着する少し前、彼らは
それこそ菓子が傷むなどを考慮しなければ数月は過ごせるのではないかと思える程で、到底ポケットや荷物に収まる物ではなかったので、それらはウィルキーの孤児院まで送ってもらうことにしたのだ。
きっと子供達は大喜びだろう。
中央都市で俺たち自身で選び買うつもりだった土産の必要がなくなってしまったのは少し寂しい気もするが、金がかからないのに越したことはないと
そうして数時間前
……いない、か
「 あの……やっぱりノイさんとは、会えませんよね? 」
スタッフさん達の列にいない彼女の名を口にするが、その問いにダールさんはやはり「すみません」と返してくる。
まぁ……こればっかりは仕方ないか。
ため息と共に思考を切り替え、この場にはいない彼女の親友へ真っ直ぐ視線を向けた。
「 それじゃあ……リサさん、伝言をお願いしても良いですか? 」
お別れの言葉を言えないのは寂しいが、俺と彼女の関係は友達という以外にも、『被害者と加害者』というものでもある以上、そうそう逢えるものではないだろう。理解しているからこそ、仕方ないと割り切れる。
故に出来るだけ優しく放ったその提案に、彼女はキリッと顔付きを切り替えては「はい」と約束を口にしてくれた。
弱りきったモノではなく、力強い決意のある表情、それに安堵し俺は信頼してノイさんへの想いを告げる。
「 いつかまた出逢えたら、その時、貴女が心の底から笑って過ごせている事を願ってます……って伝えて貰えますか?。 」
本当なら当人に直接伝えたかった想い、願い。それをリサさんに託す。
彼女はそんな俺の言葉を心に刻んでくれているかのように胸に手を当てては「必ず、伝えます」と深い返答をくれた。
なら、もう満足だ。
晴れた心で幼馴染達に、そして代表達にもニカッとしたいつもの笑みを向ける。
「 それじゃ、行きます。ありがとうございました!! 」
そんな思い切りのいい言葉を最後に歩みを進める。そうしてこの場を去る俺たちの背に列車運営の皆さんはずっと頭を下げ続けてくれていたのであった……ーーー
駅を出て少し、俺達は中央都市に幾つかある自然公園の一つにやってきていた。
ここまで来るのに数十分ほど歩いたのだが、その際散々見渡して思った、やはりこの都市はウィルキーとは世界そのものが違うのではないかと感じてしまう程に発展している。
道の全ては煉瓦で舗装されており、歩行者と馬車が接触しないよう幅広く整えられていて、それらを囲う建造物も殆どが2階建て、或いはそれ以上の大きさだ。
俺達が住む町では平家以上の建物など騎士団の宿舎や市役所などといった重要施設ぐらいしかない。それがここでは当たり前のように上階のある店ばかり、そんな街並みを見ているとウチの故郷はまだまだ田舎なんだなと痛感させられる。
ウィルキーを幾つ詰め込んでも足りない、もはや移動する為の馬車は必須であるという程に広大な都市面積も含めて、ここは簡単に言うなら縦にも横にも大きすぎる、流石はこの大陸の中心というべき場所であった。
そんな中央都市にある、俺たちが訪れている自然公園『安らぎの庭』と名付けられているここは、どこか馴染みのあるものを感じさせる場所だ。
今が雪の季節でなければ、花壇には季節特有の安らぎを感じさせる花々が咲き誇り、それらを温かく囲う木々が風で靡けば心地の良い葉音に訪れた人々は際限ない癒しを得ることだろう、そんな
「 ……カイルから聞いてたけど、ホントにウィルキーの公園ってここの丸パクリなんだな 」
「 うむ……まぁ、せめてリスペクトといってやってくれ 」
そうリースの言う通り、今現在発展しようと精一杯である我が故郷にある自然公園『美しの庭』はこの中央都市を訪れた町長がそれを見よう見真似で作らせた場所であったのだ。故に俺たちはどうしても馴染みあるものを感じてしまうのである。
ピクニックの名所だからね!!
「 まぁでも、配置とかは同じでもここにある植物たちはウィルキーの子たちとは全く違うわよ 」
森心術によって対話が可能なルイスは、中央都市のような自然とは離れている場所でこれ程までの植物と触れ合えること自体嬉しいようで先程から良い笑顔を浮かべていた。
「 で、聞いてなかったけどなんでここに来たんだ? 」
公園の中心なのであろうベンチなどが配置されているそこで足を止めてはその時を待っていたのだが、そういえば二人には何も説明してなかったか
ルイスはずっと自然を堪能していて満足気だが、リースは少し不信を感じてしまったのだろう「悪い言ってなかったな」と謝罪を向ける。
「 中央局の知り合いとここで待ち合わせしてんだ。ホテルの手配とか頼んでるんでな 」
それを耳に納得してくれた幼馴染たちともう少し公園を堪能しつつも時を待つ。すると最初はあまりいなかった俺たち以外の人達も、今日がお天気という事もあり自然を満喫しようと訪れたのだろう、ちらほらとその数が増えてきた。
その中には小さな子供を連れた主婦さんもいるようで、きゃっきゃと楽しそうに走り回る幼児たちの元気一杯の声が心をほっこりさせてくれる。
この平和な温かい空間は大好きだ。時間を忘れて、それを満喫する。
「 お〜〜い、カイルちゃ〜ん!! 」
「「「 ちゃん!!!? 」」」
そうして柔らかな空間に浸っていたそんな瞬間、あまりにも呼ばれた試しがない「ちゃん」呼びに3人揃って驚愕しては視線を声へと向けると、こちらへ小走りで向かってくるその人が目に入った。
身長はウチのギルドの受付嬢こと、ケイトちゃんと同じくらいで、だいたい俺の胸下程。
その小柄と相まって顔付きも童子のようにくりっとした丸目に、見ているだけでモチッと摘みたくなる柔らかそうな頬。
長く伸びては靡く薄緑のツインテールの髪が更に幼さを引き立てているその人が、俺よりも年上という事実は世界の神秘だと思っている。
年齢からすれば大人であるというのに、その一般的二文字を完全に無視している満面の眩い笑顔で目前までやってきた、ルイスとは違い『長寿』の特徴をエルフ族の血によって生まれながらにその身にしている中央局所属の
白と黒を基調とした、以下にも背伸びしてますと言わんばかりのタイトスカートスーツを身につけた彼女はポカンとしている俺たちを無視してえっへんと、無い胸を張る。
「 えっへへ〜〜、お久しぶり〜ミーちゃんこと。ミーラ・クレイシック。参上なのですッ!! 」
「 ……み、ミーちゃん? 」
「 頼む。リーダー、説明してくれ 」
当然の如く混乱している幼馴染たちだが、俺自身実際にこうして顔を合わせたのは二年振りなのだ。しかも前に会った時はもっと見た目に反して大人っぽい……というか怖さすら感じる雰囲気だったはずなのだが、なんでこの人中身まで幼児退行してるんだ?
とりあえず、二人に向き直り精一杯の苦笑いしてみる。
「 えっと……この子、いやこの人は2年前試験の時に世話になった中央局所属の
「 ん〜〜!!!ミーちゃんって呼んでッ!! 」
「 ミーの姐さんだ 」
「 ち〜が〜〜う〜!!!ミーちゃんッッ!!! 」
「 ミー・チャンの姐さんだ 」
「 本気で怒るよ? 」
「「「 すいやせんッ姐さん!!? 」」」
何故か最後の一言だけ幼馴染たちも便乗してくる。というか、本性現したわね!!?
そんなまるでコントのように息のあった俺たちを目に幼女は大きくため息をついた。
「 もう〜……最近特に言動が冷たいとか言われるから頑張ったのに〜 」
「 なんだ、演技だったのか……安心した〜、2年前に『挨拶も出来ない屑は今この場で死ね、なんなら私が息の根を止めてやる』とか言ってた人とは思えなかったから心配しッッ!!? 」
「 ん〜〜???私そこまで過激な事は言ってないよね〜?
言った!!最後にボソッと言ったよ!!?俺聞いた!?絶対言ってたもん!!?
という心の叫びを口にするよりも先に目にも止まらぬ速さで姿を消す幼女。
それは気がつくと俺の首にその小さく細い腕を回しては、その見た目に反してガッツリと力強く、ギリギリと肌が締まる音を発しながら、喉を通る空気の流れを閉ざそうとしてくる。
息がッッ吸えない!!?ギブ!!ギブ!!!
「 姐さん!!?どうか勘弁してやって下さい!!?姐さん!!? 」
狼狽しながら叫ぶリースだが……
馬鹿!!今ふざけるのはやめてくれッ下手に刺激するな!!?首絞まる!!?
この状況の特に恐ろしい所、それはミーラさんの容姿も相まって、俺が襲われているという今の光景が遠目で見れば幼児が青年にしがみついて戯れているようにしか見えない所にある。つまり、助け舟は期待出来ない!!?
し……しぬ…
「 ……全く〜仕方ないから、今日の所は許してあげま〜す 」
その言葉と共に首がどうにか解放され、慌てて咳き込みながらも深呼吸で大量の酸素を身体に吸い込む。
マジで死ぬかと思ったぞッ!!?
最近がどうか分からないが2年前の段階で中央都市にいる
まさに見た目で侮ることなかれ、無意識の死角を狙われたのか、それとも純粋に早すぎたのか……とにかく動きを追い切れなかった。
そんな彼女の能力に戦慄しながらも、どうにか呼吸を戻そうと努める。するとそれを見て、幼女の姿をした猛者は仕切り直しとテンションを初めのものに戻し幼馴染達へとまじまじと視線を向けた。
「 うん。お二人がカイルちゃんの幼馴染さんなのですね〜? 」
そんなやんわりとした言葉だが、先程までのやりとりを見ていただけに二人はガチガチに固まりながらもそれぞれに自己紹介と名前を上げていく。
それを目ににミーラさんは満足気な笑みを浮かべていた。
「 えへへ、カイルちゃんからの報告書は読んでるよ〜〜今まで誰も使いこなせなくて記録がろくに取れなかった
その言葉に幼馴染たちは顔を見合わせては、俺へと「どういう事?」と言った視線を向けてくるが、それに今だ整っていない呼吸をそのままにどうにか口を開く。
「
簡潔にそう言うと、ミーラさんも「そうそう」と相槌を打つ。
「
初めの時のように幼児特有の眩い笑顔で二人の手を取っては無邪気にブンブン降っている猛者に幼馴染たちも流石に苦笑いである。
これ、演技なんだよな?もうホントの子供にしかみえんのだが……
そしてそれもある程度満足した後、彼女はもう一度こちらへと向き直る。
その目はキラキラと輝いており、それを察した俺は深く息を吸い込み覚悟を固めるのであった………ーーー
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