野地 牧

白の一生




白妙の袖に包みし玉のごと

ほのかに照らす春の夜の闇



錐袋穿ちて出づる葦の芽の

年ごとに積む齢尚ぶ



波の間の都は紅き旗や立つ

駆けり 玉投げ 綱引く間にも






常盤なる松の緑に置く白は

風の解く雪 また運ぶ花



霞立つ深山を分けて入る人よ

桜な折りそ 春の盛りに



白雲に墨を置き去る雁の列

春なき国や のどけかるらん



置く露は涙なるべし天の川

浜の真砂の年ぞ積もれる



月の影宿る水辺に蛍飛ぶ

地に落つ星や線香花火



瀬を早み 石に零るる白玉の

跳ねるグラスの ふちの音聞く



吹く風にあへず散りぬる雲なれば

もとの形を訪うべくもなし



有明の月に浮かべし笹小舟

ひとり漕ぎゆく跡の白浪



もみぢ葉を沈む夕日に翳しつつ

袖打ち返す 秋は夕暮れ



みどりなる春を過ごして

いろいろの花咲く野辺も

ひとつ白草



あらたまの年迎ふればまだらにも

雪ふる里を思いやる夜






恋の火を起こせし君の白扇

夏が過ぎても あきの来ぬまま


契りしは

包み隠せるむばたまの

結えし髪に霜置くまでも



沖つ風いたくな吹きそ

相生の岸の木陰に姫小松植う



濡るる袖に君を包まむ

白き君

紅き頬さへここに宿りぬ



水に書く巴の文字の心地して

根のなき草は 波に漂ふ




常ならぬ世の常なれば

瞬きの明くる夜ごとに

また白々し

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