精霊ニナと小鬼のレイと雷のアオの物語
西しまこ
蓮の花が、あんまりきれいだったから
蓮のピンクの花が咲き乱れて、あたしは眩暈がした。くらくらと蓮の葉に落ちる。
ぽとん。ああ、なんか寝心地がいい。つうーっと蓮の葉のふちから中央へ滑り落ちる。
うふふ。楽しい。
あたしは蓮の葉の上でごろごろと転がった。
あ。
蓮の葉の中央部分に穴が開き、ひゅうっと暗がりへ吸い込まれてしまった。
ああ、どうしよう? 気をつけていたのに。まさかほんとうに穴が開くだなんて。このままずんずん落ちて行ったら、そこは――
あたしはまばゆい光と花に満ちた世界から、暗いじめりとした空気の地下空間にいた。
ああ、どうしよう。あたし、地獄に来ちゃった。
仕方がないので、天界に繋がる道を探す。蓮の茎の道は落ちることしか出来ないのだ。
ふわふわと頼りなく飛びながら、あたしは天界への道を探した。
「えーと、確か……」とつぶやいたとき、ふいに、躰から蓮の花の香が強く匂った。
蓮の花があまりにもきれいで、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった、えへへ。
あ。誰かいる。小鬼?
「ねえ」と声をかけたけれど、返事をしてくれない。
「ねえ!」と今度は頭にキックをした。
小鬼は頭を触って上を見上げ、やっとあたしに気がついた。
「お前、誰だ?」
「あたし、天界から落っこちて来ちゃったの! ねえ、地獄の門って、どこにあるか、知らない?」
「えー。おれ、変なやつに関わるの、嫌だよお。閻魔様に怒られちゃうよ」
「あたし、神様のお気に入りなのよ! たすけないと大変なことになっちゃうわよ!」
「大変なこと……それは困る。地獄の門は、こっち」
あたしは小鬼に案内されて地獄の門へ行った。
「ここが地獄の門だけど……鍵がないと、開かないよ」
「あるじゃない!」
あたしは小鬼の角を地獄の門の鍵穴にぶっ刺した! よし!
小鬼は目を白黒させて倒れていた。ごめんねっ。みんなどうしてだか、このこと知らないの。あたしは神さまのそばにいて、いろいろ知っているだけどねっ。たぶん、小鬼は何が起こったか、覚えていないんだろうなあ。えへ。
あたしは地獄の門を開け、中に入った。
そうそう。ここから自分の世界へ戻れるのよね。うふふ。
あたしは光に包まれ、上へ上へ昇っていった。
ぽんっと、蓮の花から飛び出る。
「ああ、よかった~ 帰って来られた~」
すると、誰かに摘み上げられた。ああん、もう誰?
「あ、神さま!」
「このいたずらものめ!」
「ごめんなさぁ~い」
神さまは口調は怒ってるけど、心配してくれているだけ。知ってるよ。えへ。あのね、ごめんなさい。
蓮の花が、あんまりきれいだったから。
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