エモノニセモノ屍者狂イ: 警視庁警備局公安課不能未遂係

木古おうみ

 地下鉄駅の階段から、生温かい空気を連れて地上に上がってきた男は、服を着ていなかった。



 午前五時の光が青白い身体を照らし出す。男が動くたび、着衣の代わりに纏った泥と赤黒い血がミミズのように蠢いた。わずかな毛髪から泥が零れ落ちる。

 鮮烈な朝日に目を細め、安堵の笑みのようなものを浮かべた。



 通りを歩く人影は少ない。

 男を見た店を閉めたばかりのバーテンダーは足を止め、スーツ姿の女は小走りに逃げ去った。

 男は土の匂いがする息を吐き、ほとんど歯のない口を開いた。


「皆さん!」

 夜明けの色が残る空が震える。男は辺りを見回し、大きく息を吸った。

「今回の封印は、無事に成功しましたかぁ!」



 近くの交番から警官が顔を覗かせる。

 男は全身を震わせ、糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。


 駆け寄った警官が男の身体に触れる。指先が泥まみれの肩を抉り、男の肩を貫通した。

 警官が叫び声を上げて退く。


 泥まみれの男は身体そのものが土でできていたように、ボロボロと崩れ出した。



 冷たい風が塵を空へと運んだ。

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