第49話 十文字香の手記 その二十四

 ことわざに、アリの穴からつつみは崩れるという。ほころびは意外なところから始まった。殺された奈良池先生が、学園内の清掃業者の男性にアヘンを横流ししていた事実が発覚したのである。裁判所は令状を発付し、第一校舎の中庭は掘り返された。結果ケシの根が大量に発見され、寺桜院学園と子田病院の間にかつてモルヒネ密造を巡る関係があった事実が浮き彫りとなった。


 学園では理事長と校長が逮捕された。現在の多ノ蔵理事長はもちろん、過去の理事長にもさかのぼって調査が行われ、学園を運営する宗教法人にまで強制捜査が及んだ。院長が逮捕された子田病院に関しても院長の引責辞任程度で収まるはずはなく、県が病院を買い取る形で経営権を奪い、かろうじて病院解散のき目は避けられた。


 殺人事件の実行犯としては、奈良池・絵棚両教諭の殺害容疑で、やはり理事長補佐の二品が逮捕されている。串田を殺害した犯人は子田院長に依頼された暴力団員三名だと判明はしているのだが、逃走され広域指名手配となった。


 捜査の中で明らかになった意外な点もあった。多ノ蔵理事長と子田院長の協力関係が崩れたのは、あのフェンスを乗り越え海に転落死した女生徒がきっかけだったらしい。警察の公式発表にはなかったのだが、どうやらこの女生徒は密造されたモルヒネを入手し使用していた模様。もしかしたら多ノ蔵理事長は、彼女なりに生徒たちの守護者としての自覚を持っていたのかも知れない。


 だが同情はできない。私たち受験生は世間から白い目を向けられながら苦戦し、特に難関合格率はさんざんな結果だったのだから。


 まあ、それでも何とか卒業式を迎えられたことには、卒業生の誰しもそれなりの感慨があったと思う。


 ただ、夏風走一郎は二度と学園に姿を見せなかった。卒業後、保護観察処分になったという噂はあったものの、あえて真相を確認した者はいない。

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