第20話 五味民雄の述懐 八コマ目

 ああ、そうだったそうだった。まだ外が暗い時間にパトカーのサイレンで目が覚めたんだ、俺も。デカい事件が起こったのはすぐわかった。


 夏風走一郎の『予言』通りに事件は起きた。不謹慎なのはわかってるが、正直ホッとしたな。何せ今度の第一発見者は俺じゃないんだから。もし二つの事件の犯人が同じなら、俺は容疑者リストから完全に外れはしなくても、かなり隅っこの方に寄せられるはずだ。


 まあ念のために警察が俺の居場所を確認しに来るかも知れないし、着替えておくか。そんなことを考えられる余裕はあったな。




 十文字茜は難しい顔で五味を見つめている。


「人が死んでるかも知れないって思ったのに、怖くないもんなんですか、実際」


「怖いと思うヤツもいるだろうな。それを不思議だとは感じねえよ。ただ」


 五味はワイシャツの胸ポケットのタバコに手を伸ばしかけて、やめた。


「人ならいまこの瞬間にも世界のどっかで死んでる。それをいちいち怖がったり悲しんだりしないだろ? 距離が近いか遠いかだけの差だ。少なくともこのときの俺は怖いより悲しいより、ホッとしたってのが先に来た。それが偽らざる感想だよ」


 そう言うとカップに残ったコーヒーを飲み干し立ち上がる。


「おまえら、コーヒーのおかわりは」


「あ、いえ、おかまいなく」


 剛泉が返した笑顔に、五味は「そうか」とうなずき台所に向かった。

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