第16話 五味民雄の述懐 六コマ目

 何が各自行動には気をつけるようにだよ。要は出る杭は打たれるから目立つなって話だろ、くだらねえ。あ、言っとくが俺はごまかそうなんて思ってなかったぞ、それは十文字の勘違いだ。こっちは校長室に呼び出されたもんだから、「お、とうとう退学か」って期待してたんだぜ。それが何だよ口頭注意って。そんなもん担任経由で小言をぬかせば済んだ話だろうに。


 ただ、何だろうな、ちょっと違和感があったのは。あそこにカウンセラーの入地が居たってことは、アイツが直接校長に告げ口したか、もしくは上司に報告したことが回り回って校長の耳に届いたってことだ。


 だが奈良池が殺されて以来、事件のことについてああでもない、こうでもないと話す生徒は学園中に少なくなかった。確かに県警に依頼されたカウンセラーから情報を聞き出そうとした生徒は少ないのかも知れない。しかしだからって、どうして俺たちだけが校長室に呼び出されたのか。学園側はいったい何をそんなに危険視したんだ。


 夏風走一郎が優秀だから真相に迫るかも知れないと危惧した? それじゃまるで真相にたどり着かれると学園が困るみたいだよな。真犯人が見つかって俺が容疑者から外れるのが困る? これはあり得る話のような気もしたが、その割に俺の周りを警察がウロウロしたりはしてないんだ。さて、他にどんな可能性が想定されると思う。


 まあこのときはそんなことを考えながら俺が校長室のドアを閉めたんだが、いま閉めたドアがすかさず開いて、入地が笑顔で外に出て来やがった。どうやら俺たちについてくるつもりだったらしい。コイツもいったい何を考えているのやらね。


 それはともかく、このときが初めてだったな。夏風走一郎の様子が少しおかしいように思えたのは。具合でも悪いのかって何となく感じたんだ。




「このときの校長室呼び出しの真相は判明したんですか」


 剛泉部長の問いに、五味は首を振る。


「さあな。ホントのところは最後までわからなかった。だが夏風走一郎に対する牽制けんせいって側面はあったんじゃないか。それが校長判断なのか、それより上の判断だったのかは、いまとなっちゃもう不明だけどな」


 剛泉部長は腕を組んで考え込む。


「つまりこの時点ですでに夏風さんを危険視していた可能性がある訳ですか」


「このときの俺たちにはまだ見えないところで、自分は頭がいいと思ってる連中が陰から人間をコマにして動かしてたからな。俺らも知らんうちにコマになってたんだろうさ」


 五味民雄の口元に浮かぶ笑みは、幾分苦々しいように見えた。

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